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リハビリ記録その81

2009-8-1
山内正敏

 日光浴向けの晴れた日が無い割に、例年より暖かい日の多い7月=休暇でした。例によって良く歩いていますが、それ以外に今年の挑戦として汽車とバスを使った3泊4日の旅(7月18〜21日))に行ってきました。行き先はノルーウェーのローフォーテン(Lofoten)諸島の中心街スボルバー(Svolvear: 写真 1, 2 )です。

 ローフォーテンは大西洋に奇妙に延びた諸島で、キルナの真西400km程に位置しています。その景色の素晴らしさから、昔からヨーロッパ屈指の観光地として有名な所で、病気になる前にも何度か行っています(1992年、1993年、2000年)。ただ、距離の割にアクセスが大変で、車で行こうとしたら遠回り(片道500km以上)かつ途中でフェリーに乗らなければなりません(車だと一日では到着しない)。ところが、昨年新しいアクセス道路(トンネルや橋ばっかり)が完成して、フェリーの部分が無くなったばかりか、距離も400kmとなって、私でも旅行が可能な範囲になりました。そこで、車でローフォーテンにリハビリ旅行をする機会を一昨年からうかがっておりました。
 元々はキルナの友人達と車で行きたいなあ、と思っていたのですが、たまたま日本の友人がこちらに数日だけ遊びに来る事になり、それならばと、その日程に合わせてレンタカーで行く可能性を調べてみました。これが6月上旬。この場合、運転は介護にお願い出来ないので(建前ではそうだし、実質的にもちょっと大旅行過ぎる)運転手を捜さなければなりません(つまり友人+私+介護+運転手の4人で行く事になる)。一番良いのは介護のボーイフレンドに運転手をお願いすることで、私がホテル代や食費までカバーするなら介護に取って悪い案ではありません。実はキルナに生まれ育った人の多くが近場ゆえにローフォーテンに行った事がなく、介護もその一人なのです。もしも介護のボーイフレンドが駄目なら、介護の友人にお願いし、それでも駄目なら、その時は汽車でのナルビク往復で済ませるつもりでした。ナルビク泊でも日本の友人に悪い話ではないし、私にとっても汽車旅行という挑戦が出来ます。
 さて、身障者用のホテルを6月に調べるうちに、研究所まで長距離仕様のバスに乗って行く事に成功し(前回のリハビリ記録)、更に念のために交通機関を調べた所、汽車(3時間)とバス(4時間半)の組み合わせでローフォーテンまで行けると分かった事から、『車が駄目なら云々』という部分が曖昧になって、しかも、この手の旅行(運動能力勝負)に連れて行くにはベストの介護が今夏だけ働いているという事実や、身障者対応のホテルをせっかく色々調べたのに勿体ない(安いホテルが悉く駄目なので大変だった)という気分から、結局、運転手が確保出来ないと分かったあとでも(ボーイフレンドはサッカーの大会=準決勝で抜けられなかった)、『チャレンジとしてうってつけ』と思ってしまって、当初の予定よりも遥かに難しい旅行になってしまいました。まあ、自信があったからそうなったのですが。

 日程は、初日に汽車でナルビクまで行き(ストックホルムからキルナに向かう寝台に友人が乗っていて、それに接続する汽車でナルビクまで行く)、そこで身障者対応のバンガローに泊まり、そこまでで問題が無ければ(体調以外に天気とか)、そこから長距離バスでローフォーテンの港町スボルバーに行って、そこで2泊して、帰りはバスと汽車で一気にキルナに行く(片道8時間)というものです。友人とはナルビクの手前の空港で先にバスを降りるので、最後の部分は介護と2人だけ(助けてくれるのが一人だけ)となります。一応、帰りのナルビクで汽車に乗り遅れて最終便になる可能性とか、バスで疲れてナルビクにもう一泊しなければならない事態も想定はしていましたが、結果的には予定通りに日程をこなしました。
 1日目は駅から バンガロー まで2キロの道が急坂ばかりだったので、汽車と合わせてさすがに疲れて、夕方は部屋で過ごしました。2日目も4時間半のバスの旅で疲れて、チャックインするや、しばらく昼寝を余儀なくされましたが、それでも夕方には橋(写真 1, 2 )の向うの島まで往復したりしています。3日目は丸一日が観光という事もあって、6km離れた隣町カーベルボーグ( Kabelvag )まで歩いて(写真 1, 2, 3 )往復しました。ノルーウェーだから坂が多く、行きに1時間半、帰りに2時間かかりましたが、晴天という事もあって、景色や花を楽しんで来ました。この辺りは緯度が同じでもキルナ界隈より遥かに花の種類が多いのです。その後、ホテル= 波止場で日光浴 して、更に、そのあと4km強を歩いて、結局一日当たりの歩行距離の記録(膝バンドなしの記録)を更新してしまいました(膝バンド付きでも16kmのタイ)。
 ただ、好事魔多しとは良く言ったもので、夕食後サンダル履き(しかも足首固定器無し)でホテル横を回ったら、疲労のせいか足が十分に上がらずに、サンダルが劣化コンクリの粗目(剣山みたいな1センチ以上の凸凹)に引っ掛かって転倒してしまいました。鋭い凸凹ゆえに、ゆっくり落ちたのにかかわらず怪我が大きく(立ち上がる為に膝立ちしたら、静かな膝立ちだったにも関わらずその接触部分から血が出て来た程)、旅行から帰って数日は 化膿を本気で心配 した程です。転倒の原因は、疲労という面はあるものの、同じ程度の疲労でもキルナのアスファルト程度の劣化なら問題ない筈なので、それほどに路面がザラザラしている事(と、その危険を十分に認識しなかった事)が一番の原因です。セメントの早く抜ける波止場は怖い。まあ、そのように、しっかり認識したので、同じ過ちは繰り返さないでしょう。怪我の方は、今は快方に向かっていて問題ありません。

 さて、この旅行でクリアーした挑戦は以下の通りです。
(1)汽車の昇降:日本と違ってホームと汽車の間に大きな段差があって、話は簡単ではありません。実は4年前にも車椅子で汽車に乗った事があり( リハビリ記録35 )、介助3人掛かりでなおも非常に危険を感じたので、ずっと諦めていました。だから今回も介護だけでは間に合わないだろうと踏んで、汽車の会社にも介助を予約していたのですが、その介助がいつまで待ってもホームに現れず、痺れを切らして介護1人だけの手助けで昇り始めたところ、すんなりと昇ってしまいました(両腕で支えた上で介護に引き上げてもらった)。これはひとえに炊事用ゴム手袋のお陰です。というのも手すりが滑る事無くしっかり握れたからです。実は、通勤バスで色々と試した結果、炊事用ゴム手袋が良いだろうと云う結論に至って、私のサイズに合う炊事用ゴム手袋を前日に買ったばかりだったのですが、ここまで効果的だとは思いませんでした。ちなみにナルビク駅での下りは介助(汽車手配の人が待っていた)の肩と手すりとで支えながら降り、最終日のキルナ駅では座ったまま降りました。
(2)汽車のトイレで尿袋を空ける:帰りは行程が長い上にナルビク駅のトイレが階段を降りた地下にしか無い(全然身障者対応でない)ので、汽車でトイレに行かなければならないのは前提でした。で、駅に止まっている時にトイレに行っても良かったのですが、これも挑戦という事で、動いている時(横揺れがある時)に挑戦しました。歩行器が動かないように足を余分に踏ん張らせる必要があったり、尿袋をしっかり固定するのに工夫したりでちょっと大変でしたが、とにかく自力で何とかなりました。ただ。ドアを支えたりとかあるので、介護はやっぱり必要です。ともあれ、これで将来の飛行機内でのトイレ使用に向けて一歩進みました。
(3)バンガロー(身障者用と銘打っている奴)を使う:トイレだけは身障者対応とはいえ、他は普通の小屋で、例えば寝室は二段ベッドが2個(4人部屋)です。3人で泊まるという事も考えて、結局、キッチンのソファー(+床)に寝て過ごしました。スウェーデンのバンガローに比べて少し汚い感じでしたが、泊まる分には問題ありません。問題は出入り口で、こちらはスロープの最後の段差がきつくて、介助なしには出入り出来ない構造でした。なお、バンガロー自体は上記4年前の他 6年前 に使った事がありますが、その頃は夜は尿袋をもう一個接続して、夜にトイレに行かなくて済むようにしていたので、今回のように自力で尿袋を空けるという前提での旅行ではバンガローは初めてです。
(4)長距離バス使用:通勤に使うバスとほぼ同じタイプのバスだったので昇降は問題ありませんでしたが(ここでも炊事手袋が役立った)、そのバスに4時間以上も乗った事で、キルナ界隈の長距離バスも全く問題が無くなったと云えるでしょう。これは日本でも同様で、介護さえ居れば空港バスや高速バスも可能な筈です。日本のタクシーはスウェーデン(歩行器や乳母車が積めるようにワゴン式になっている)と違ってセダン型なので、私の使っている大きな歩行器だとひょっとしたらバスの方がタクシーより便利かもしれません。
(5)坂の多いノルーウェーを歩く:やはりスウェーデンよりきつい坂が多く、帰ったあと(疲れが取れたあと)、キルナの坂が少し楽に感じた程で、逆に言えば、坂にも更に自信がつきました。
(6)車椅子を使わずに3人相部屋を使う:今までの歩行器のみの旅行では個室だったので、部屋を裸で移動しても問題ありませんでしたが(トイレはそれが便利だから)、相部屋になるとそういう訳にもいかず、更にトイレからベッドの距離とかも違います。それでもシャワーとか浴びれて相部屋でもどうにかなる事が分かりました。ちなみに相部屋にしたのは主にコスト上の理由で、一泊がシングルが2万円、ツイン2万5千円、トリプル3万円(それでも満室だから売り手市場)となると、連泊でシングル(計12万円)とトリプル(計6万円)とで大差があり、馬鹿らしいのでトリプルにしました。介護が試合の遠征でタコ寝屋に慣れているのと、私は床に寝るのが好き(だから、ちょっと質の落ちる予備ベットが私のベッドになる)なのと、非常に広い部屋だったのが幸いして、前日のバンガローより遥かに快適に泊まる事が出来ました。相部屋というのは北欧ではユースホステルですらやっている程にスタンダードですが、それでも一応、介護に旅行前に本当にそれで良いのか念を押してはいます。

 今回の旅行の総費用ですが、上記のように宿泊費が高いばかりか、観光地と云う事でレストラン(take outを含めて)がやたら高く、ナルビクまでの汽車賃を除いても、3人3泊4日で 7700 NOK(約12万円)で、もしも3泊ともシングルだったら、この倍近くになっていました。まあ、これが世界的『秘境』観光地というものなのでしょう。同じノルーウェーでも、ちゃんとした主要都市であるトロムソ(少なくともピザ屋はマトモな値段)とは雲泥の差です。
 費用と云えば、バス代でびっくりしました。帰りの片道バス代が行きの片道バス代の丁度倍だったことです(行きが一人210NOK=3500円で帰りが一人420NOK)。前もって電話でバス代を確認した上で、ノルーウェーの現金を用意したので、ギリギリしか用意していなかったら(換金は最低限が普通)、バスに乗れないところでした。理由を聞くと会社が違うからだそうで、帰ってからネットで調べると、確かにナルビク拠点の会社(朝ナルビクを出て、午後スボルバーから戻る)とローフォーテン拠点の会社(朝ローフォーテンを出て、午後ナルビクから戻る)とで値段が倍違います。でも、バスの時刻表にはどちらの会社のバスが運行しているのか書いておらず、さすがに有名観光地は殿様商売で非常に不親切だと呆れました。そんな訳で、ノルウェーに旅行される方は、旅行の最後まで現金を余分目に残しておく事をお薦めします。ちなみに、このバス代ですが、1990年代の値段と比較すると、物価上昇までひっくるめれば、350NOKぐらいが妥当な値段のようです。
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