Encode is "iso-2022-jp" or just "Japanese" (if the text is "moji-bake")

[リハビリ記録その71]     [ホーム]     [概略表]     [リハビリ記録その73]
============================================

リハビリ記録その72

2008-11-2
山内正敏

 雪が融け切る前に凍結する最悪のツルツル状態の2週間を終えて、ようやく冬の砂雪状態となり再び歩けるようになりました。とはいえ、今週末は介護(夏臨時と今の臨時の2人)の出場するハンドボールの大会の応援で潰れて、屋外歩行訓練は来週にお預けです。但し、昨日などはアパートと体育館の雪坂道を3往復半もして(片道1.3km)、しかも試合の間(前半20分後半20分)ずっと立っていたので、脚の筋肉は普段の週末の倍ちかく使った気はします。

 発病から丁度7年が過ぎました。この手の病気は、発病5年以降の記録が医学雑誌に全く無いほど『長期的には殆ど回復しない』と思われていて、例えば回復度の統計研究でも、最終状態の判定は『発病5年、又はそれ以前に回復が止まった時点』というデータが使われているほどです。だから、私のように5年目から6年目でも、6年目から7年目でもかなりの回復を示している例は、報告例が全く無く、それを きちんと記録する だけでも意義があります。そこで、毎年ビデオを撮って整理している訳ですが、いざ撮影しようとしたら、ずっと使っていた携帯ビデオカメラのヘッドが壊れていて、仕方なくオーロラ用の大きなビデオカメラを持ち出したため、撮影が予定より遅れております。以下、ここ1年の主な回復を要約します。
 
 手と指 は、爪をヤスリで削る事が出来るようになった他。特殊箸の使いかたが良くなって、料理のかなりの部分が自力で出来るようになりました。問題は包丁が全く使えない事(力が入らないし、そもそも握りが弱いので落とし易く危険過ぎる)と、食器の出し入れが出来ない事(単に台所の上の高い棚に置いてあるから)と、何かに火がついた時に自力で消せない事(実際、1ヶ月程前、紙が燃え始めた事があり、隣部屋に介護がいたお陰でなので大事に至らなかった)とで、残念ながら、料理を自力でやるという大それた事は今の所全く考えない方が良い様です。でも、そういう気にちょっとでもなったのは精神的には大きな回復を意味しています。
 自転車 は、一昨年から昨年までは5%しか速くならなかったのに、昨年から今年は20%も速くなっていて、トータルすればかなりの回復になっています。自転車への乗り降りでも、今までは下に台を敷かないと歩行器からサドルに移れなかったのですが、今はそれ無しでも可能です。
 プールは 出入りにリフトを使わなくなった のが大きな変化で、あと立ったまま腰から捻って横を向く訓練が、2年以上も水深65cmで停滞していたのが、ここ数ヶ月、ようやく浅い所(水深50cmや35cm)でも可能になりました。他に、今まで水深50cmで四つん這い屈伸をやっていたのが(それが安定して出来るようになるまでに2年掛かっているのですが)、昨年から今年にかけで、片足を水深50cm片足を水深35cmに置いて屈伸する訓練を始めており、必ず数回出来るようになっています。更に今週からは両足とも水深35cmの状態で、尻を水の直ぐ上まで持ち上げる事も出来るようになりました。
 これらをまとめると、たったの一段上がるのに3年以上掛かっている事になりますが、それは浮力の有る無しの違いですから、脚への負荷は率にして格段に大きくなっており、3年以上の時間がかかって当然です。ちなみに、成果までに極めて時間のかかる訓練と云うのは、医学研究(最長3年以内にプロジェクトの成果を出す事が全ての科学分野で求められている)の対象には相応しくなく、特にそれが発病から4年目以降に起こったとあっては、研究自体が不可能に近いでしょう。それで今まで報告例も無かったのではないかと思います。
 歩行訓練 は毎月報告している通りコンスタントに進展があります。これを年のスケールでまとめると、例えば長距離だと、一昨年のデフォルト(普通の歩行器で膝バンド付き)、昨年のデフォルト(肘歩行器ながらも膝バンドなし)、今年のデフォルト(普通の歩行器で膝バンドなし)と変化しています。膝バンドは松葉杖の訓練からも減り始めて、病院廊下での松葉杖自主トレ(補助無し)では膝バンドを付けずに行い始めており、先週のベストは660mを63分(分速10m強)でした。これは5年前の膝バンド使用での速度並みで、逆に言えば膝バンドを外すのに5年以上掛かっている事になります。次の目標である『3点確保でなく、一瞬でも片足片杖状態になる歩き方』ともなると、膝バンドあるなしで6年近い差が出るのではないかと思います。ここまで時間がかかると、もはや我慢の世界で、『リハビリに必要なのは根性でなく根気である』を実感します。
 膝バンドの他、足首固定器の使用頻度も減っており、先日は片道ながらも、足に補助具を何も付けずに、凍結道1キロを40分かけて歩きました。歩行関係の回復は他にも色々ありますが、ここ1年の一番大きな歩行進展を取り上げれば、階段の昇降訓練を始めた事と、ストックホルム旅行で車椅子無しで済ませた事でしょう。後者に関しては、車椅子主体の生活から歩行器主体の生活に移行しつつある事を意味しています。研究所に車椅子でなく歩行器で行き始めたのが、つい1年前で、こういう大変化が発病6〜7年目にかけて起こるのだから、やはり根気は馬鹿になりません。リハビリに根性論を持込む人が時々いますが、根気の反対語が『熱し易く冷め易い』である事は言うまでもなく、逆に根性は『熱し易く』の類義語ですから、私に言わせれば根性はリハビリの敵に他なりません。だから、根気という用語を間違って根性という褒め方をされると虫酸が走ります。というのも、そういう人に限って、私を引き合いに出されて他のリハビリ患者に『根性が足りない』と言い兼ねないですから。

 生活の方でも常時介護がいる状態から基本的に介護がいない状態への移行が急速に進んだ年で、それを反映する介護時間(予定表の時間)は3年前の週100時間から2年前が95時間、昨年が87時間で、今年が80時間、そして介護サービスを変更する12月からは週70時間にまで減らします。介護に求める技能も退院時(発病1年)とは全く正反対となって、当時はとにかく重症身障者(寝返りが打てなかった訳ですから)の面倒を見切れるベテラン、つまり最低年齢25歳という条件で介護を募集したのが、今では歩行訓練とかリハビリに協力的な人という事で、(正式には条件にしないものの)元気な25歳以下が望ましいと思っている程の変化です。
 現に12月からの3人の介護は12月1日段階で26歳、21歳、18歳という陣容になります。このうち最後の18歳は、夏介護(超スポーツ少女)がチームメート(ハンドボール)を紹介してくれたもので、今は臨時介護として試運転し始めて1ヶ月になりますが、これまた非常に良い介護でした。やはり私はスポーツ系の介護と相性が良い様です。こういう素晴らしい介護連には、こっちも『ハンドボールゲームの応援』という形で恩返しする価値があり、それで今シーズンはハンドボールの試合を沢山見に行く事になりそうです。冒頭に書いた通り、体育館まで片道1.3kmの片道に加え、試合中(普通の試合は前半30分+後半30分)は立って応援するので、それはそれで良いリハビリにもなります。

 そんな訳で、いつもの無駄話もハンドボールにします。
 日本では余りポピュラーでないハンドボールですが、こちらではバスケットボールよりも遥かに盛んで、高校に『ハンドボール』選手養成コースがある程です。もっとも、ハンドボールのチーム自体は高校毎に組まれるのでなく、クラブチーム(街のクラブ=そこにスポンサーや公的補助がつく)という形で、街全体で組まれます。ヨーロッパではハンドボールに限らず、全てのスポーツでクラブチームという形態をとっており、その分類は、高校生であろうがなかろうが、単純に年齢別であって、その意味では極めて公平な制度と言えるでしょう。そのクラブチームが街の代表として他の街のクラブと競技する事になります。
 要するにスポーツと学校は別もので、こうなると日本で騒がれているようなスポーツ特待生制度が有り得ません。ちなみにスウェーデンでは高校の学費はゼロで、しかも20歳未満だと生活費(+アパート代)も税金でサポートされるので、その意味でも特待生制度が成立する筈もありません。少子化の時代はこのくらい未成年サポートをすべきだと思うのですが、金持ちや株投機への税金の極めて安い日本にその財源を求めるのは無理かも知れません(日本と違い、スウェーデンでは株売買の利益にもサラリーマン並みの累進所得税がかかる)。
 税金はともかく、そのハンドボールですが、実際に試合を見て感じたのは、これはバスケットボールよりもホッケーに近いという事でした。人のぶつかり合いといい、キーパーがゴールを守る事といい、試合の流れ方はホッケーに近く、だからこそ、こちらで人気が出ているのではないかと感じました。
 さて私の介護連ですが、夏の臨時介護は高校生にもかかわらずキルナ成年女子(17歳以上)チームの準リーダー格で、試合を見てから初めて知ってびっくりしました。大学はハンドボールの強いヨーテボリに行きたいと云っていたのが頷けます。ちなみに彼女の高校の選択はハンドボールでなくツーリズムビジネスです。一方、彼女が推薦した新しい臨時介護(12月から40%正規になる)は、1年前までは陸上(短距離と幅跳び)をやっていて急にハンドボールの転向した人なので、レギュラーには遠いようです。でも、だからこそ成長が著しい訳で、それはそれで応援のしがいがあります。例えば、『1ゲームで2得点以上したらケーキを奢る』と約束したところ、昨日の第3試合で4得点もして、びっくりさせてくれました。
============================================
   []