2012-5-6
山内正敏
雪が少なく雪融け自体も早く始まった割には、それが4月に停滞して、今週に至っては3度も積雪する有様で、その度に外が真っ白になっています。その為か、いつまでも雪が融けきれず、現時点の残雪は例年よりも多くて、普通の人がスキー出来る状態です(私がスキーをするには雪質が悪過ぎる)。お陰で4月は4度もスキーに行きました。
もっとも、雪融けが遅い為に、歩道の残雪(完全に氷になっている)や砂利が大量に残っているおり、研究所からアパートまでの長距離(8キロ〜8キロ半)歩行は未だに出来ていません。昨年は4月13日、一昨年が4月12日に始めたのですから、かなりの差です。もっとも、そのかわりに歩き易い路を選んで10〜11キロ歩行(2時間強)を3度やっていているので、スタミナ訓練自体は例年通りに再開しています。これから9月までは、今までのパワー&バランスの訓練からスピード&距離の訓練に重点が移ります。その1つ目の通過点が3週間後のハーフマラソンで、昨年の同じコースでの「世界初」の記録が4時間10分だったので、今年は4時間以内が目標となります。
さて、先月の最大のイベントは、病気後初めての大きな学会(欧州地球科学連合総会:ウイーン)への、11年ぶりの参加です。参加者が1万人を越す規模で、今まで参加して来たテーマ別会議(参加者100人前後で部屋一つ)と違って、広い会場をウロウロしなければなりません。しかも、会場からホテルまで少し離れているため、地下鉄かタクシー利用が前提の会議という事で、本当に無事に全日程をおくれるのか不安な会議でもありました。しかも、そんな会議に、いきなり発表4件と記者会見を抱えてしまい(健康な時でも、ここまで忙しいことは無かった)、リハビリ度の確認としてはこの上ない体験になってしまいました。
常識的に考えれば、病気後初参加なのだから、発表1〜2件で済ませろと言われそうですが、今回はそれで済ませられない事情がありました。それは、福島放射能汚染です。というのも、この研究は今のところ予算ゼロでやっている為、放射能汚染がらみの研究と関係のある会議に参加する為には、予算をもらっている通常研究(地球や惑星の磁気圏の話)の発表を優先する必要があるからです。こういう、若干異なる分野の研究を同時に発表できる場は数千人規模を越える大きな学会しか有り得ず、それで、わざわざ身障者に厳しいこの会議に参加し、出版したばかりの論文(火星)と、投稿中の論文(地球)の発表も行なったという訳です。
逆にいえば、福島原発事故が無ければ、こんな大きな会議には今年も参加しなかった筈です。ちなみに、このままではどうにもならないので、放射能汚染のデータ解析について来年度予算申請を出しましたが(締め切りが学会出発の前日)、本来の専門外ということで、発表同様に普段の3倍以上の時間を費やしてしまって、ほとんど綱渡りで会議に参加した感じです。ちなみに、予算申請に際しては学問分野を選ばなければならないのですが、「放射能汚染の動きのデータ解析」という研究分野自体がリストに全く無く、そういう意味では、予算申請を審査する専門部会の全てが「これは分野が異なる」と判断して宙に浮く可能性すらあります。
そういう事情で来ているので、聞きたい講演も多分野(惑星、地球磁気圏・オーロラ、気象・大気汚染、土壌汚染)に渡ってしまい、講演を何ヶ所もハシゴする羽目となって、普通の参加者以上に広い会場を歩き回りました。その上、朝はホテルから35〜40分かけて歩いて会場に向かったので、毎日くたくたなってしまいました。更に、記者会見とそれに関連する発表が、いずれも本来の専門外ということで精神的に疲れて、帰宅後数日は完全にバテておりました。今でも足に疲れが残っています。もっとも、この手の肉体的な疲れや精神的な疲れは、日本帰国に比べると全然楽なので、今のところ体調自体は良い様です。
会場はドナウ川の中州で、ホテルは対岸の一番近い所(それでも2キロ以上離れている)に泊まりました。1月上旬にホテルを押さえたお陰でなんとか泊まれましたが、今にして思えば好判断で、というのも、朝ラッシュの地下鉄にはとても乗れない(歩行器が大き過ぎて座席に辿りつけないので、立ったままの移動になってしまう)事は分かったからです。ちなみに、中州には他に2軒ホテルがありますが、値段が高いので、介護の部屋代まで出さなければならない身にはちょっと厳しいものがあります。結局の所、私みたいな要介護身障者が大きな会議に参加する場合、地下鉄での移動が不可能である事を前提に宿泊プランを組む事が最重要なようです。
そこまでして確保したホテルですが、身障者施設は完全とはいいがたく(バスルーム自体は広いのに、必要な装備がない)、遥かに狭い日本のホテル(例えば札幌で泊まった東横イン)のほうが余程良いようです。その為、今回はシャワーが浴びれず、タオルで体を拭くだけになってしまいました。欧州の春だったからよかったものの、夏の会議や日本の会議では問題があるようです。少なくもとウイーンで夏に会議が開かれた場合は参加出来ないと考えるべきでしょう。
他の問題点として、足首固定器で窮屈になった靴を脱ぐ事も出来ないという事がありました。とにかく朝7時過ぎから夜9時過ぎまで14時間も靴を履きっぱなしで(会議は8時半から19時まで)、その靴の中に足首固定器を入れて、それでつま先から足首からきっちり締め付けているのだから、健康に良い筈がありません。ちなみに、今まで参加して来た小さな会議だと、午後の講演の間に、これを外してもらったりしていたし、そもそも小さな会議ではホテルと会場が同じ場所である事も多く、靴を10時間以上も履き続けるような事はありませんでした。大きな会議ではそういう訳にはいきません。これは次回以降の課題になります。
ちなみに会場自体は身障者アクセスがきちんとしていて、車椅子の人も2人以上見かけました。その他のサポートも良く、花も満開で(キルナでは絶対に見られない樹木とか)そういう意味では気持の良い会議となりました。あと、病気後初めて会う人も多く、中には私の病気(10年半も前の話なのに)を知らなかった人もいて、そういう意味では、大きな会議の有り難さを感じました。今度も参加したいとは思いますが、その場合は、今年みたいに沢山の申請(現在2つが終了、残り3つで、その3つ目は200億円規模の話)を抱えるような馬鹿な真似だけはするまいと思います。
最後に例によって無駄話です。
今回の会議で一番精神的に大変だったのは記者会見です。これが専門の話(人工衛星やオーロラ)やリハビリの話であればマスコミ慣れしているので気楽に参加出来たのですが、大気中の汚染物質の動きなどという話は、私の専門ではないし(というか、上述の様に、研究分野自体が福島以前には存在しなかったので、その意味では世界にも専門家がいない)、社会的インパクトも違う(宇宙科学=好奇心の対象、放射能=現在進行形の問題)ので、話の落としどころが分からず、しかも約40人の会見参加者の先頭バッターとなってしまったので、人前で話す事に場慣れしている私もさすがに緊張しました。
ところが蓋を明けると、やってきた記者は5〜6人(そのうちの1人は昼休みにインタビュー)、会見に参加出来なかった人による別個のインタビューが2件で(
こんな感じ
のマイナー記事になっているようです)、この程度であれば、そこまで熱心に準備する必要はなかったようです。取りあえず
要約
を書きましたので、興味のある方はどうぞ。ちなみに日本の週刊誌等に記事を書いているフリーの記者からも電話インタビューを受けたので、数日以内にそんな記事が出るかも知れませんが、この種のインタビュー記事の常として、3〜5割の誇張や誤解があると思いますので、記事内容がちょっと変でも過激でも、それが私の言い分100%だと取らないようにお願いします。