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リハビリ記録その79

2009-6-1
山内正敏

 平年よりも10日以上早く新緑に覆われて、雪かきで積み重なった最後の残雪も完全に消えてしまいました。5月の平均気温は平年より相当に高かったようです。その為、北極海との激しい温度勾配から、季節外れ強烈な前線がキルナ市北端に停滞して、嵐が一週間以上も吹き荒れています。数日前には最大瞬間風速26m/s(隣の市では39m/s)を記録して市営プールの屋根の一部が飛ばされました。

 3週間前に出張でウプサラ(Uppsala)まで行ってきました(4泊)。ストックホルム空港まで飛行機で飛ぶのは今年に入って4度目で、もはや挑戦という感じではありませんが、それでも何かしら新しい成果はあるものです。例えば飛行機のタラップを(1人の肩にすがりながら)初めて歩いて上ったとか、ホテルと会場の間の急坂を毎日往復して下り(=膝の筋肉)の訓練になったとか、ウプサラの市街地から研究所のウプサラ支部まで4時間かけて歩いて往復したとか、岸壁よりも低い船に歩いて乗った(補助2人)とか、半地下の飲食店に階段を座り降りて入ったとかありますが、一番大きかったのは、好条件が偶々そろった身障者トイレで、始めて介護無しでパンツとズボンを上げた事でしょう。
 具体的には、片手ずつでズボンを上げ、最後は便器に膝の内側をもたれさせつつ瞬間的に手放し状態にして尿管などをパンツの中にしまい込みます。下肢だけをもたれかかせるのでは脚力が足りないのでトイレが膝の上面のぴったりの高さでなければなりません。だから、キルナの身障者トイレでは便器の高さや手すりの高さの関係からまだ無理ですが、とにかく、そういう事が出来るトイレがあったという事と、そこでそういう事が出来たという事実は、1年半後の日本出張(現地介護のみ)に向けて大きな一歩です。トイレに置ける自立は、私に限らずリハビリ一般の一番大きな節目ですが、そういうのが発病から7年半目にして始めて可能性が出て来たという事実は、リハビリが如何に根気を必要とするものであるかも示しています。

 ウプサラ出張から戻ると、キルナはネコヤナギが咲き始める春の陽射しで、そこで介護と一緒に15キロ程離れた川岸でBBQをしました。私はしっかりと竃の横の岩に座って、 薪と火と食べ物の管理 をしておりました。火のついた薪を完全に掴むのは難しいものの、それでもその管理をする事は手のリハビリに最高で、更に 網の上に乗せた肉や野菜 が焦げ付かないように(身障者用の) 箸で管理 するのも、これまた良いリハビリになります。
 BBQの翌日には、キルナを十年ぶりに訪れた研究者とレンタカーでノルーウェーまで行ってきました。ノルーウェーには5〜6年前にも車や身障者用バスで何度か行っていますが、その頃は車椅子で、もちろん介護に同行してもらっています。でも、今回は歩行器のみでしかも介護無しです。トイレに問題が無いという判断があったからこそ出来た事ですが、それでも往復350キロというのは馬鹿にならない距離で、これも挑戦には違いありません。車の通行量が非常に少なかった事もあり、ノルーウェーの一足早い春を満喫して、ついでに昨冬新しく出来た山ホテル兼スーパー兼レストラン( リハビリ記録73参照 )にも帰りに寄り、結局トータルで6時間半の大行程となりましたが、問題なく終わっています。
 その後の歩行訓練では、 膝バンド無しの松葉杖訓練 で進展があり、10%の登りと5%の下りを歩ける事が分かりました。ただ、坂道は登りで5%、下りで3%を越えると、3点確保のへっぴり腰になってしまうので、それはそれで訓練の意味が余り無いので、へっぴり腰にならずにすむ程度の坂で練習する事になります。もっとも、この松葉杖訓練も、冒頭に書いた様な強風の中では無理なので、今は様子見の状態ですが。
 松葉杖では、階段の訓練でも大きな進展があり、ついに膝バンドなしで、杖+手すり(介助は腰バンド念のための支えるだけ)での昇降が 上り下り も出来るようになりました。膝バンドからの脱却は今年の一番大きな目標なので、それが大きく進展した感じです。

 さて、昨年末以来の懸案になっていた投書を、EU議会の選挙に合わせてスウェーデン国会の7政党に2度に渡って出しました。一つは介護のタクシーへの同乗問題( リハビリ記録74参照 )で、もう一つは飛行機への機内持ち込み制限(ボトル当たり100ml)の問題です。私は日本国籍なのでEU議会への選挙権はありませんが、それでも選挙期間中とあって、過去2回の投書とは比べものにならない程素早い返事がほぼ全政党から戻って来て、選挙の効力をまざまざと実感しました。もっとも、投書の内容が過去2回に比べて短くかつ実現が簡単なものだった事もこ好反応の理由の一旦かもしれません。
 過去を含めて全部で4回も投書をすると、投書への反応という意味で簡単な統計が取れます。現在の所、2党が全てに非常に丁寧な返事を出して来て、そういう党には自ずから親近感が沸くというものです。
 ちなみにボトル当たり100mlの問題ですが、なぜこの投書をしたかと云うと、私の使っている医療関係の液体がどれも120ml( 尿管の清浄液 )から130ml(尿管用の穴の消毒液)で、そのままでは持込めないからです。病院の薬局で処方無しに買えるこれらの薬は、だからといって海外の薬局で手に入る保障は全く無く、旅行に必ず持って行かなければならない代物ですが、機内に持込む為には、医者に会って(これが面倒)、その医者から『英語』の『必須医薬品』証明書を出して貰わなければなりません。しかも、証明書があるからと云って、それで外国のセキュリティーがokである保障は全くありません。それで、今まで預け入れ荷物に入れていたのですが、簡単に開けられるように作ってあるこれらの容器は衝撃に弱く、現に昨年のオーストリア出張では容器が壊れて薬が無駄になったばかりか衣類も少し濡れてしまいました。
 昨年、100ml制限を撤廃するようにというEU議会の答申はあったものの、EUコミッションで否決されていて、放っとけなくなったので投書しました。投書の内容は制限を100mlから130-150mlに上げてもらう事です。この程度の違いでテロ対策のリスク(このリスクも心理的なものでしょう)が変わる筈がなく、各政党から賛同の返事が来るのも当然です。でも返事でびっくりしたのは、今まで誰もその手の声を上げていなかったらしい事で、投書して良かったと思いました。
 この問題はEUだけでなく全世界共通なので、日本でも同様に100mlから130-150mlに変えて貰えると多くの病人が助かるのではないかと思いますが、そういう意見は日本にはないのでしょうか?

 最後に例によって無駄話です。
 上でノルーウェーへのドライブの際に車が少なかったと書きましたが、これには訳があります。私たちが行ったのは日曜でしたが、その日はたまたまノルーウェーの独立記念日で、しかも前日の欧州歌謡選手権(みたいなもので)でノルーウェー代表が優勝して、前夜のノルーウェーがどんちゃん騒ぎだったから翌日の車が非常に少なかったようです。どんちゃん騒ぎという事は酒を飲む訳ですが、酒気帯び運転に煩い北欧では、酒を大量に飲んだ翌朝も運転は厳禁で(実際、飲酒運転のチェックは土曜と日曜の午前中が多い)、それで殆どのノルウェー人が車を運転出来きなくなりました。お陰で、ノルーウェー縦貫ハイウエーでは、過去18年で一番車の少ない状態でした。
 あと、今回の5年ぶりのノルーウェー行きで、国境付近の小屋(別荘)がやたら増えていたのにびっくりしました。スウェーデン側の新築は上記の新ホテルに集中していますが、ノルーウェー側では別荘小屋が散在しつつ倍増していて、過去5年のバブル景気の間に国境地帯のリゾート化が急速に進んだ事を感じました。もっとも、キルナとナルビクを結ぶ国道の開通から30年ですから、もしかしたらそういう時期なのかも知れません。でも、理由はどうあれ、最後の秘境を守りたいキルナの住人としては余り嬉しい話ではありません。
 秘境といえば、 kungsleden (王様の散歩道)の一番有名な部分(110km)をリュックを担いで歩く大会( リハビリ記録58参照 )が今年もあり、日本からもツアーが出て、参加者を募集しています。8月5日発14日着で40万円だそうです。
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