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リハビリ記録その11
2003-10-12 山内正敏
夜空が熟眠を携えて戻って来ました。一雪ごとに寒くなる、月と星とオーロラの季節です。
秋と言えば一応食欲の季節の筈なので、昨日は介護の為に巻寿司の講習会をやっておりました。日本食の無い(材料も殆ど無い)この街では、巻寿司は超めずらしいもので、よって巻寿司講習会も大好評で(実際美味しかった)、そのまま介護の為の懇親会になってしまいました。私とて、巻寿司をたらふく食べたのは、キルナでは初めてです。というか、巻寿司というものをキルナで食べる事自体が在住13年で2度目で、1回目は先週の誕生日。その時は姉が作ってくれた訳ですが、鉄は熱いうちに打てという事で、材料の残っている今週末に介護だけでもう一度作ってみる事になりました。
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その
誕生パーティー
ですが、病院関係者/同僚/スキー関係者など計38人も訪問してくれて(声を掛けたのは200人ぐらい)、1日当たりの訪問者数の最高記録(退院パーティー26人)をあっさり更新してしまいました。たかが誕生祝いに大量の人に声を掛けたのにはそれなりの理由があります。
そう、3週間前(9月16日)に、ついに
松葉杖で歩く(立つ)
練習を始めたのです。まだまだ自力には程遠く、体操療養師に両手でしっかり支えてもらわないとバランスが取れないし、一回当たりの歩行距離も20mが限界(1回目は8m)ですが、とにかく歩いています。ただし病院のジムで週2回だけ。上体のバランスがもっと良く取れて、体操療養師でなく介護でも安全に支えられるぐらいになれば毎日練習出来るのですが、今はとにかく歩けたという事に満足すべきでしょう。というわけで、誕生会にも体操療養師に来てもらって、松葉杖で3mだけ歩いて見せました。で、その時、次の大きなパーティーは松葉杖なしで歩けるようになった時にやる(=それまではやらない)との宣言もしておきましたので、その際は、是非日本からも見物に来て下さい……。
歩行で一番難しいのは上体バランスで、これは腰/尻の筋肉が不十分な事に起因します。胴体に比べて回復の遅い脚力は、弱いながらもさほど障害にはならず、これは恐らく足を伸ばす為の力(両足で20kg強)と伸ばした足を曲げないようにする力が全然違うからだろうと思われます。もちろん松葉杖(というか肘)で支えている分もありますが、体重の半分以上が足の方にかかっている筈で、この、バランスが一番難しいという事実は私には意外でした。おそらく脚力は椅子から立ち上がる時/座る時に重要なのでしょう。
とりあえず、今までの歩行能力の回復過程をまとめると(詳しくは
こっち
=3ヶ国語対応):
(1)室内用歩行器に立ち続ける(発病9ヶ月後=補助3人/13ヶ月=補助1人)
(2)室内用歩行器で室内/平坦道を歩く(16ヶ月=補助あり/18ヶ月=補助なし)
(3)屋外用歩行器で室内/平坦道を歩く(19ヶ月=補助あり/22ヶ月=補助なし)
(4)平行棒で前向き後向きに歩く(19ヶ月=補助あり/22ヶ月=補助なし)
(5)屋外用歩行器で坂道を歩く(20ヶ月=補助あり)
(6)平行棒で横向きに歩く(21ヶ月=補助あり)
(7)松葉杖で室内を歩く(23ヶ月=補助あり)
一度松葉杖を体験すると、歩行器での練習法(体重の掛け方)も改善されて、以前より訓練効果の高い歩き方が出来るようになりました。単純に言えば、歩行器から出来るだけ体の重心を離すようになっただけの事ですが、それだけでも私にとっては大きな発見です。あと、松葉杖体験の効用として、屋外用歩行器が(松葉杖にくらべれば)楽に感ぜられるようになりました。今では病院に行く時は車椅子を使わずに歩行器ばかり使っています。また、9月27日より以降は残雪の凍結した道路ですら
屋外用歩行器
で歩いています。
凍結と言っても、屋外用歩行器(日本では見かけないタイプ)なら危険はありません。これは雪道を想定して設計されており、凍結道路の場合、健康な人間が杖無しで歩くより、私が歩行器で歩いた方が安全なくらいです。実は、歩行器で歩く時は必ず腰にバンドをして、難しい道ではそれを介護に支えて貰っているのですが、凍結道路の場合、私が転ぶ確率より介護のほうが転ぶ確率の方が高いような気がします。今後、凍結と解凍を繰り返しながら根雪になる訳ですが、その前に距離を稼ぐべく、ここ10日程は今までの練習コースから離れて、色々な道を
都合1キロ程、約1時間かけて歩くようになりました。出来れば最寄りのスーパーまで歩行器で買物に行きたいものです。
練習の主力が歩行器に移るに伴い、車椅子を使った訓練は停滞気味で、坂を登るための腕力等は進展がありません。それでも1ヶ月前には最後の小夏日和(9月11日、最高気温19度)に誘われて、アパートから研究所までの8km弱を車椅子で行って来ました。下り行程(120m 差)とはいえ1時間以内(57分)で漕ぎ切って満足しています。自転車道があるのは前半だけで、後半は路側、しかも時速90キロ制限の高速道路です。でも、車椅子って、自動車専用道路(そんなのキルナ界隈半径 300km 以内にはない)以外の道は法律上は何処を走っても良いし、現実問題として、路面の具合(凸凹とか横傾斜とか)は高速道路の方が遥かに良く、かえって安全なくらいです。もちろん通り過ぎる大抵の車は呆れていたいたようですが。でも、丁度、例のスウェーデンの外務大臣暗殺事件の直後の沈んだ雰囲気の時だったので、『明るい話題だった』という便りをあちこちから頂き、望外の反応に喜んでおります。
他の回復です。
*室内だと、車いすで足だけで前進できる(5m/min)。
*プールの一番浅いところに自力で立てる。
*寝ている状態だと、ジャージのような伸縮性のあるズボンの脱着が自力で出来る。
*辞書を本棚から引っぱり出して開き、再び本棚に戻せる。
*バンドなしで、直接スプーンを持ってアイスクリーム程度のものを食べられる。
*回すタイプの蓋(水筒など)の開閉が出来る。
一番の問題は、当初の予想通り指の回復で、親指が事実上使えないためモノを掴む事が出来ず、また指を開く事も出来ないので、指の自由度は猿以下猫以上鶏並みです。これは手の神経が殆ど回復していない事に起因していて、それでも少しずつ器用になっているのは、手首の回復のお陰です。
手の回復は遅くとも、タイプは効率的になり、特にこの半月程はスウェーデン語の作文が急に上達しました。というのも、スウェーデン社会保険庁とやり取りをしているからです。例によって介護関係のトラブルですが、今回は純粋にお役所仕事の問題で、要するに私の介護への給料を国(社会保険庁)が払うべきかキルナ市が払うべきかで、社会保険庁が私の病気の実情を知らずにキルナ市に押し付けた事が発端です。
スウェーデンでは病人の社会復帰を優先させる為、完全介護を付けてですら病院から追い出す訳ですが(それで私も昨年追い出された)、その際、確実に(短い時間で)回復する患者については市が責任を持ち、後遺症の残る(数年後に週20時間以上の介護/ヘルパーの必要な後遺症)患者については国(社会保険庁)が責任を持ちます。ところが、私のような中間的/不透明なケースについては明解な基準がありません。法律では『長期に渡る身体障害』が国の管轄という事になっていて、この長期(Varaklig)が具体的にはどの程度の期間を指すものか書いていません。発病(または退院/書類申請)から2年と言う人もいれば、回復が続く限りずっと、などという人もいて、まあ、常識的には最大でも退院から2年と思われる訳ですが(それ以上の長期は市というより国の責任でしょう)、とにかく、そういう混乱があるところでもって、私のケースを審査する人間が、医師からの『見通し不明で回復に最低1年かかる』という中間報告(退院半年後)を、事もあろうに『1年で回復する』と曲解して、私の再三の手紙(=『却下判断するには時期が早すぎる』という内容)を無視して、私へのインタビューもせずに(それどころか医師や体操療養師にも全く連絡を取らずに)、私の申請書(介護の費用を社会保険庁に出して貰いたいという内容で、退院半年前に病院のケースワーカーに出して貰ったもの)を却下したものだから、さすがの私も腹を立てて、社会保険庁に問い合わせる傍ら、新聞社に投稿したり、キルナ市や病院の関係者に連絡を取って不服申し立ての文章を書いたりしていた訳です。もっとも、却下されたところでキルナ市が私の介護の給料を払うから、私の一連の行動は、単にキルナ市を喜ばせるだけのものですが、許せないものは許せない! とう訳で、スウェーデン語作文を実践しておりました。…忙しかった。
今回の件に関して同僚は『病人である為には(精神的に)健康で無ければならない』とコメントしております。
さて、もう一つのトラブル…2ヶ月前から急に尿管が詰まり易くなった事ですが、症状自体は今も変わらず、原因も不明のままです。取りあえず塩酸系清浄液( Chlor-Hexidin )で3日に一度清浄して凌いでいますが、あまり長く続けるべき薬で無いので、早くウーミオ大学病院(入院待ち)に行って検査を受けたいものです。日本だと、とっくの昔に検査になっているでしょうが、ここは全てのテンポがのんびりしてて、まあ、こんなものです。
最後に旅行ですが、3週間前にウプサラまで1泊出張してきました。介護1人。前回のヘルシンキに比べれば楽なもので、もはや国内旅行は飛行機だったら怖くありません。次は汽車に挑戦しなくては…。
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追伸:先週木曜はヨルダンの国王一家がスウェーデンの国王一家と一緒に研究所を訪問し、そのため研究所には所員より報道関係者で埋まってしまいました。野次馬(王室制度反対派も含めて)の注目の的はスウェーデンの王女(25歳独身、皇太女)で、私も始めて見ました…可哀想にまるで動物園です。
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