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リハビリ記録その10
2003-9-05 山内正敏
キルナは記録的に暑い夏(晴れて15度を越えて夏を感じた日が28日もあった)から一転して秋に突入し8月末日には積雪を記録しました。例年より5ー6日早いようです。当然ながら屋外での歩行器訓練の際にも手袋が必要になっています。もっとも、雪が降ると屋外での歩行器訓練は出来ませんが。
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先週1週間(8月25ー29日)ヘルシンキの学会に参加した為(学会再デビュー!)、その準備で8月中旬以降が恐ろしく忙しく、レポートが遅れましたが、けっして回復が停滞している訳ではありませんので、もしも心配して下さった方がおられましたら御安心下さい。ただし、学会+その準備でリハビリ訓練が2〜3週間ほど十分に出来ず、脚力など一部の機能で7月並みに衰えたところは確かにあり(=今までの訓練が神経の最大能力を活用しているものであった事を図らずも証明したような格好ですが)、その遅れは今週1週間かけてやっと取り戻しました。
で、前回(1ヶ月半前)からの進展です。まず歩行器(屋外用も室内用もどちらも)訓練ですが、一回に歩ける距離や速度は2ヶ月前と大差ないものの(最長500m程度を30〜40分)、段差とかでの安定性が良くなって、ようやく病院まで行けるようになり、今週は私が入院していた集中治療科やリハビリ科を訪れて、お世話になったスタッフを表敬訪問しました。皆の何と喜んでくれる事、こうも喜んでくれる人が多いとリハビリ訓練にも張りが出ます。あと、屋外用歩行器で軽い坂(傾斜2〜3%)の上り下りの練習も始めています(室内用は安定性が悪いので出来ない)。
一方、平行棒での(両手で支えながら歩く)練習では横歩きを始めました。但し、これは腰から上のバランスの訓練という感が強く、足の訓練には余りなりません。足の訓練は寧ろ車椅子に座ったままの方が出来るようで、それは6月22日のレポートで紹介した、足の蹴りだけで車椅子を後向きに動かすというもので、7月末には時速2km(というか1kmを28分)というのが出ています。
足の訓練といえば自転車漕ぎがありますが、8段あるギアの6段目までならゆっくりながらも漕ぐ事が出来ます。半年前は3段目すら歯が立ちませんでしたからかなりの進展です(詳しくは
こちら)。
じゃあ、実際の脚力はどのくらいかとなると、測定方法が色々あるので一概に言えませんが、(体操療養の訓練のメニューとして)今週から始めた
脚力訓練器
では両足で20kgの負荷がやっとというところです。これは3ヶ月前のウーミオの時の値と見かけは同じですが、ウーミオの時や体重計を使った測定は膝が伸びた状態(=力の入り易い角度)での脚力ですが、今回は膝を思いきり曲げた状態から伸ばしていく、一番脚力の入り難い角度での脚力という事になりますから、明らかに脚力は強くなっています。
車椅子を使った訓練は、少し離れた陸上/スキー(クロカン)兼用スタジアムでも始めました。そこは健康な時の私の主要練習場なのですが、整備は悪く、小石が転がっていたりぬかるみが何日も残ったりで車椅子にはベストではありません。でもとにかく試しに漕いでみようと7月下旬に下見に行ったところ、なんと400mトラックの一部(直線)が全天候トラックになっているではありませんか。10年この方夢見ていた事が実現された訳です。それも本当に必要な時に! もっとも、全天候化の代償としてカーブの部分が砂利で埋められ、長距離の練習には不便になりましたが、今の私に必要なのは全く平坦な鋪装路ですから、これは正に私の為に作られたようなものです。ここで練習しない手は無い…。
現実には思うようには練習出来なかったものの(=フィンランド出張の準備の為)、時折そこで2〜4種のインターバルをやっています。タイムは介護の人にとって貰い、
*普通の車椅子漕ぎが往復220mを2分弱(時速に直して約7km)
*スティックを使った
ロルストール・スキー
が2分内外
*足台を外して前向きの漕ぐのが3分弱(時速に直して約 4.5km)
*脚力だけで後向きに行くのが5分半(時速に直して約 2.4km)
です。車椅子の早い人は時速30km以上で漕ぎますから(身障者による車椅子マラソン世界記録は1時間20分で、私と同程度の障害の人に限っても1時間53分)、こっちはまだまだひよっ子ですが、だからこそ、これからが楽しみとも言えます。
練習の目標の1つに車椅子レースがありますが、8月2日に初参加してきました。しかもロードで無くいきなりスキーコースでのクロカンです。
毎年8月第1土曜日にキルナ郊外のユッカスヤルビ(アイスホテルで有名な所)でロードレースが開かれていたので(というか、他に平地のロードレースがキルナ界隈で無いので)、それに参加したのですが、主催者が『毎年同じじゃ面白く無いから、今年はクロカンにしてみよう』と今年に限り変更して、それが分かったのが大会2日前。さすがに躊躇いましたが、たまたま介護が屈強な19歳で、彼がついていればガキ用コース(1.5km)くらいは完走できるだろうと考えて無謀にも参加しました。確かに無謀でした。大鋸屑が敷いてあったり、岩ゴロゴロだったり、木の根に邪魔されたりの路で、何度も車椅子がスタックして、その度ごとに介護に助けて貰い(だから厳密には自力ではありません)、しかも40分もかかったのですから。でも完走してしまえば、大会史上初の車椅子完走者という名誉で実に気持ち良い。40分と言えば10kmコースの連中のゴールタイムに重なる訳で、その意味ではゴール前は競走を楽しめましたが、問題が一つ、それは親切な関係者がゴール前の草むらを回避させるべく誘導してくれた迂回先がとんでもない急坂だった事で、さすがの屈強介護も車椅子を支えきれず前つのりに転倒してしまいました。ゴール前5m。全く、親切心なんか出すなっちゅうのにとグチってみても仕方のない事で、ベルトを外し、車椅子を引き離し、それから体制を立て直して1分後に無事ゴールしました。もっとも、転倒と云っても介護がずっと支えた状態でしたから、緩やかなソフトランディングで被害ゼロです。という訳で結果的にはとても良い思い出になりました。無能な親切に感謝しなくては…。
車椅子ばかり長々と書きましたが、もう1つだけ。それは学会の行われたヘルシンキの道と建物です。とにかく車椅子に全然対応していない。官庁街(会場の近く)の道が昔の作りで石畳なのは仕方ありませんが、歩道と車道の段差が異常に高く、自力で交差点に降りるのは全く不可能、介護ですら苦労して車椅子を昇降していて、間違っても車椅子で歩くべき街ではありません。現に首都の癖に車椅子で出歩いている人は1人も見かけませんでした。但し、市バスの殆どと路面電車の一部は車椅子対応で、交通機関を使えば良いのかも知れません。そう言う意味では進んだ街なのでしょうが、でも、正直な話、市バスをわざわざ車椅子対応にするより、スウェーデンみたいに車椅子はタクシーを使うようにしたほうが経済的かつ合理的ではないかと感じてはいます(バスの費用もさることながら、車椅子の昇降の為に他の乗客を待たせる訳で、時間=金と考えると…)。
この件では米国ボールダーの超リベラルな友人が全く別の立場から同じ事を云っておりました(ボールダーでは最近通った条例でバスを無理矢理すべて車椅子対応にしなければならなくなったそうで、彼女は無駄使いだと憤慨していた)。単なる福祉で無く経済効率の良い福祉というのが近年のターゲットなのです。寿命の来たバスを順次車椅子対応にして、タクシーと併用するというのが一番合理的な筈です。で、ヘルシンキがそうかと言うと、空港で見かけたタクシーの多くがセダン型で車椅子を積めないタイプだったので、考えてしまった訳です。ただ、ヘルシンキとキルナやボールダーでは人口に大差があるので、バスの効用が全然違うと思われ、何が効率的かについては現時点では何とも云えません。ヘルシンキはヘルシンキのやり方があり、他の街には他の街のやり方があってしかるべきで、単なる真似事が決して良く無いという例なのでしょう。
学会会場はさすがに車椅子対応でしたが、レセプションのあった建物(国の建物です)は最寄りのエレベーターまで階段があり、しかもそのエレベーターと来たら夕方6時以降閉鎖で、階上のレセプション会場まで、4人がかりで昇降して貰いました。全く、何の為に車椅子対応かどうか前もって尋ねたか分かりゃしない。まあ、この程度のエラーは誰にでもありますから不問にしますが、とにかく建物の不備には呆れた次第です。
学会関連では予備登録でもごたごたがあり、主催者から送られた電子メールの文面だけ見れば、2人の介護も私と同額の登録料を払えと言っているのです。同額はいくらなんでも書き間違えだろうと思って、私だけ予備登録して介護の登録は会議初日に行いましたが(この時は介護参加に伴う費用に見合う妥当な金額だった)、車椅子参加(介護付き)は半年前から言っているんだから、もうちょっと早めに妥当な情報を流してもらいたいものです。主催者の真意はともかく、こっちは『車椅子なんかに参加されたら迷惑だ』と思っているのではないかとつい勘ぐってしまいました。でも結果的には、発表は晩餐前に持って来てもらって観客も多かったし、晩餐のクルーズにも参加できたし、何よりも、病気後始めての本格的会議に無事参加出来て、ヘルシンキ行き自体には大いに満足しています。但し、すっかりヘトヘトになって帰って来ましたが。
ところで、ヘルシンキまでの飛行機ですが、始めのキルナ→ストックホルム間は他に4人も車椅子(+介護3ー4人)が乗っていてびっくりしました。何でもオランダから釣り(休暇)の為にキルナに来たとか。確かに釣りなら車椅子でも出来ます。それにしてもわざわざキルナまでねえ…、とは思いましたが当人達がとても楽しんだみたいだから確かにそれで良いのでしょう。キルナとオランダでは人口密度が全然違うから、寧ろ、それを楽しみに来たのかも知れません。
ところでストックホルムやヘルシンキは搭乗アームがあるのでタラップ無しです。従って、車椅子も楽な筈ですが、どっこいヘルシンキからストックホルムに戻る飛行機がプロペラだったので、普通のゲートに着かずタラップの昇降を余分にする事になりました。ちなみにキルナからヘルシンキまで(ホテル/アパート間)の所要時間は片道7時間半〜8時間です。結構遠い。
車椅子関連以外の回復ですが、箇条書きにすると以下の通りです。
*
床とベッドの間を自力で移動
できるようになった(今まではリフトで吊るして移動させて貰っていた)。
*寝る時に自力で枕を腰の下にあてがう事(一日中座りっぱなしなので、腰痛防止に時々腰を反らせる必要がある)が出来る
*U首シャツなら脱着が出来る。
*首/うなじを掻く(後頭部/脊髄がずっと痒くて仕方ないが、これは原因不明)。
*頭を洗って貰う時、自力で頭を掻く事が出来る。
*理科年表程度の本を本棚から引っぱり出して開き、再び本棚に戻す。
*新聞を手に持って読める。
*ペーパータオルをちぎり取り、洟を咬み、それをゴミ箱に捨てる事が出来る。
*冷蔵庫だけで無く冷凍庫(開けるのにより力が入る)も開ける事が出来る。
*電動式歯ブラシを握って歯磨き出来る(但しスイッチのON/OFFや歯磨きを付ける事は出来ない)。
かように回復が更に進んだので、夏の休暇シーズンの終った8月中旬からは介護が3人半(1日18時間)に減りました。9月中旬からは休日の介護を13時間に減らす(介護3人のローテーションにする)試みも予定しています。減った1人は9月新学期に大学に入る為にキルナを離れた19歳で、もうひとり臨時介護の19歳も専門学校に行く為に辞め、代わりに19歳2人+18歳なりたて1人を臨時介護に登録して19歳が更に若返った感じです(出て行った2人は辞めた週に20歳を迎えた!)。残りは30歳以上のベテラン。現在3人いる19歳(全員臨時介護)のうち一番誕生日の近いのが2月ですから、当分はベテラン+ティーンエイジャーという陣容が続きます。なんだか19歳の介護が当たり前になってしまいましたが、やはりちょっと信頼性が足りず、特に朝には弱いようで、例えば臨時介護の某(女の子)なぞは3日続けて寝坊して、こっちの起床が3日とも1時間半以上遅れたという事もありました(さすがにベテラン介護が腹を立てていたけど)。しかし介護関係のトラブルはいつもの事なので(今回も例によって市の介護課のエラーとか郵便紛失とか色々あった)もう慣れっこになっており割愛します。
私にとって最近の一番のトラブルは体に関する事です。それは1ヶ月前から急に
尿管が詰まり易く
なった事。そのため、この1ヶ月で3度も尿管を替える羽目になりました。
私の尿管は3ヶ月以上持つタイプで、現に今までは3〜4ヶ月に1度しか替えていません。それが10日しか持たない訳ですから何かがおかしい訳です。詰まり易くなった直接の原因は、尿に綿みたいな白いものが混ざるようになった為ですが、尿検査しても細菌も出なければ蛋白にも異常が無く、水は以前から毎日5〜6リットル飲んでいるから普通の結石とも考え難く(下の注参照)、学会準備(が思うように進まない事)に伴うストレスぐらいしか原因が見当たらないので今週様子を見たのですが、白い綿みたいなものは依然として出続けて、看護婦さんもお医者さんも頭をかしげています。どのくらい詰まり易いかというと、毎日2回尿管を清浄しても詰まってしまって10日で尿管を取り替えざるを得なかった程です。従ってヘルシンキ出張には尿管のスペアを持って行きましたが、出張中なんとか機能し続けたので助かりました。早く原因が分かって欲しい。
【注 後日、クロリード・ヘキシディンによって分解するので腎結石のようです】
尿管トラブルの直接的被害はプールが中止になった事です。尿管(の為に穴を開けたところ)は常に清潔にしなければならないので、プールの時は水が入らないように特製のゴムパンツをはいてますが、それでも厳密には不十分なので尿管交換直後数日はプールを取り止める訳で、それで8月はずっとプールに行けませんでした。7月が夏休みでプール中止でしたから、結局この2ヶ月にプールに行ったのは狭間の8月4日+7日の2回だけ。今日やっと再びプールに浸かった次第です。
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回復概況
2ヶ月目=肩と背中の筋肉がかすかに動き始める。
3ヶ月目=人工呼吸が取れる
4ヶ月目=リハビリ病棟への移動
5ヶ月目=寝台の横に数分座る/車椅子を漕ぐ
6ヶ月目=車椅子を後向きに漕ぐ
7ヶ月目=仰向け状態で両手を組む
8ヶ月目=くしゃみが出来る
9ヶ月目=床ずれ防止の注射を止める
10ヶ月目=エレベーターのボタンを手の甲で押す/横向きに寝ている状態から仰向けに戻る
11ヶ月目=本のページをめくる
12ヶ月目=補助バンドを使って食事する/退院、自宅療養
13ヶ月目=歩行器で支えて立つ
14ヶ月目=室内用自転車を(車椅子に座ったまま)空回り向きに漕ぐ
15ヶ月目=軽いコップを両手で持つ
16ヶ月目=歩行器で支えて歩く
17ヶ月目=胸までの水があれば自力で歩く
18ヶ月目=半袖シャツを自力で着、寝ている状態でズボンを足首まで降ろす
19ヶ月目=滑り板を使って車椅子から乗用車助手席に移動する
20ヶ月目=正式に仕事復帰(50%)/車椅子で手を使わず足だけで後向きに進む(時速1キロ)
21ヶ月目=ベッドと床の間を自力で昇降する。
22ヶ月目=国外(ヘルシンキ)の学会に参加する
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最後に宣伝です。オーロラの季節が再びやって来ました。3月にも書きましたがリアルタイムの全天カメラ映像がありますので、暇な時は御覧下さい。
リアルタイムオーロラの放映(NHK)も9月20日(日本時間で朝7ー8時頃)に予定されています。訳の分からない戦争のせいで4月の予定が延期になっていたもので、南極昭和基地との同時中継だそうですが、私はこの日だけウプサラ出張(1泊)が入っいますので、物理的に参加不可能です。
画像で無く、実際のオーロラを見たいければ、10月あたりから格安のオーロラツアー(例えばSASで東京ーキルナ往復ホテル込み12万円)が出ている様です。
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