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京都条約の盲点・その後
京都条約が重要であり、かつ或る程度有効である事は間違いないだろう。だが、あらゆる重要懸案は、まさにその重要性ゆえに啓蒙を浸透させなければならず、その啓蒙の際に分かりやすいワンフレーズに言い換えなければならない事から、その分かりやすさの部分に盲点を含む。地球温暖化問題も例外ではない。
地球温暖化問題では、二酸化炭素による温室効果(地球から宇宙空間へ出ていく熱が少なくなる現象)だけが一人歩きしてしまった。この種の一人歩きで怖いのは「木を見て森を見ず」の弊害に陥る事であり、その指摘を
会議の直後に書いた
が、その時の危惧が現実のものとなりつつあるので、もう一度指摘しておく。
8年前に危惧した事は3つあった。第一に平均温度ばかりが報道された事である。
問題なのは気候が変わる事であって、平均気温の上昇のみではない。気候とは、降水量や極端な気温や異常気象の頻発などをも含むのであって、特に平均的気圧配置(梅雨前線の位置等)がほんの数百キロ(気球規模では僅か)ずれたりするのも含まれる。こういう局地的変化は地球全体の平均気温にほとんど影響を与えないが、温暖化問題で予想されている変化の一つであり(注1)、平均気温の変化よりも遥かに人間活動に影響している。たとえば、雨の降りやすい場所が数百キロずれただけで穀倉地帯の降水量は大きく変化し、台風の経路が数百キロ北に移動するだけで災害が突然増える。こういう問題点は8年前にほとんど報道されず、それがひいてはアメリカの無関心をも呼んだ。但し、この問題は、いまや、竜巻や台風の巨大化という形で注目を浴びつつあるので、今回わざわざ指摘する必要はなさそうだ。
第二に温室効果以外の効果が無視されている事である。温室効果以外の大きな効果だけで2つある。都市化と太陽の影響だ。
日本や先進国海岸では温室効果よりも都市化(コンクリートジャングルや廃熱)による影響で局地気候が大きく変化している。日本の夏の平均気温が高くなったのは都市化の影響に他ならない。今後同じ事が中国で起こった場合、中国の砂漠化の加速に大きく影響すると思われる。また、都市化によって、上層の水蒸気量が局地的に変化する効果も無視出来ない。というのも、水蒸気量は二酸化炭素に比べて圧倒的に量が多く、その光学特性により、二酸化炭素量の変動以上に平均水蒸気量の変動が地球の気候に影響を与えているからである。二酸化炭素に目を向ける余り、こういった事への対応がなおざりになっている面がある。但し、急速に発展しつつえる国々では二酸化炭素の削減=エネルギーの削減=都市化の緩和、という面があるので、二酸化炭素に対応するだけでも進歩と考えて良いだろう。
一方、地球全体の温暖化には太陽の長期的な変化も影響を与えている事が分かっている(注2)。少なくとも1990年代前半までの地球の温暖化は太陽による影響が殆どであり、1990年代後半からは太陽だけでは説明がつかないらしい(らしいという所までしか分からない)。つまり、2000年以降は両方の影響が相乗効果を起こしている可能性が非常に高い。だが、悲しい事に、太陽の影響を調べるアカデミー(宇宙科学系)と、温室効果を調べるアカデミー(気象科学系)が、お互いに相手を認めないという不毛な対立を15年近くも続けており(予算が絡んだ話らしい)、両者の相乗作用を予測する研究がほとんど始まっていない。今の調子で太陽が変化すると、温室効果が大きく拡大する筈にも関わらず、しかも、この種の混乱にブッシュ政権がつけ込んで、温室ガス削減からそっぽを向いたにも関わらずである。但し、この問題も、世界の大多数が温暖化を心配している限り政治的な実害は少ない(科学的には害は多いが)。
第三に物質としての二酸化炭素が単純に悪者にされている点である。そこに「自然界での循環」とか「自然の治癒力の活性化」という視点はない。これは非常に危険といえる。
たとえば二酸化炭素を地下に固定させれば良いなどという発想が出ているが、「ガイア/自然治癒力」の視点からすると暴論である。というのも、二酸化炭素を構成する炭素は生命圏の循環に不可欠なものであり、それを隔離すると言うことは、循環を止めるという事に他ならないからだ。炭素の循環が弱まれば、地球生命圏が持っている「自然治癒力」が弱まるのは当然の帰結である。そもそも地球は昔は氷の無い温暖な時代を経験しており、その温度が下がった最大の理由が植物の繁茂にある。そういう治癒力の事を「二酸化炭素を海底に封じ込める案」は全く考えていない。
この技術の問題はそれだけではない。植物は二酸化炭素を還元して炭化水素という最も還元した形で固定し、同時に水素をも炭素に固定する。こういう水素を炭素の化合した「還元炭素」が原油の正体であり、それを、最も酸化した形(二酸化炭素)で地下に閉じ込めると云う事は、酸化によって水素が余る事を意味する。悪い事に水素は元素の中で最も軽く、地球の重力で支えきれずに宇宙に逃げて(酸素は十分に重いので簡単には逃げない)、地球に置ける元素のバランスが不自然な速さで崩れるかも知れない事を意味している。
結局の所、二酸化炭素を地下に埋めるシステムが一旦出来るや、本来なら生命圏でリサイクルすべき炭素はサイクルから失われ、しかも、炭素の酸化・還元の循環が切れて水素が止めどなく宇宙に逃げ、果ては、その元である水を失う可能性がある。にもかかわらず、こういった人類の存亡に関わる危険性に付いての一切の議論無しに二酸化炭素の地下固定の議論が進んでいるのが現状だ。
これら3つの問題点のうち、1つ目は理解の方向に向かっており、2つ目も温暖化対策という意味では実害は少ない。しかしながら、3つ目の問題点は危惧が現実のものになりかかっている。それは、最近の京都条約締結国会議で議案に上った事からも明らかだろう。二酸化炭素を地下に固定する等と言う技術は、自然をないがしろにした悪魔の技術である。そして、そういう身の程知らずな行為に自然は必ずしっぺが返しをする、おろらく、孫、曾孫の世代に。
2006-11-18
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注1: 水(や水蒸気)の大循環を無視すれば、温室効果は地球の気温を平均化する方向(風を全体的に弱くする方向)に働く。その極端な例が金星である。しかし、実際には(温室効果に限らず)温暖化は水の大循環を活性化させるので、それによる上昇気流や下降気流が局地気候を不安定化させる。さらに、温暖化の原因は温室効果だけではないから、その効果も水の大循環を通して局地気候の不安定化を進める。
注2: 太陽には有名な黒点11年周期というのがあるが、気候変動のような時間スケールの話では11年の平均値を使って、それを長い年月に渡って気候と比較しなければならない。今の所、相関が見つかっているのは、地球超高層へのエネルギー入射量には直接は効かない、平均磁場の強さとか黒点周期の長さ(11年からのずれ)とかで、有力な説として、宇宙線の量とかを通して雲量とかに効き、それで影響を与えるのではないかと言われている。