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リハビリ記録その95

2010-10-21
山内正敏

 キルナは19日(火曜)の昼から降り出した大雪が1日以上も止まず、一気に真冬の景色になっています。予報では向う一週間は最高気温が零度を超える事はないそうで、このまま根雪になってしまうと思われます。

 2年半振りに日本に行って来ました。前回よりも更に長い2週間の滞在(10月2日着、10月15日発)で、前回(2年半前)、前々回(5年前)と同じく、今回も多くの方々のお世話になりました。先ずはお礼申し上げます。
 10月とは思えない暑さに加えて会議の疲労が激しくて、帰国前に風邪を引いてしまい、一週間たった今も咳が止まらないので、ゆっくり休んでいます。疲労は出発前から想定済みなので今週は休暇を入れていますが、ともかくキルナに戻った後も何もする元気もなく、今日になって漸くレポートを書く気分になれるまで回復しました。

 今回の日本行きのメインは札幌で開かれた国際会議 にサポートスタッフとして参加する事で、その準備(プログラムの作製やポスター発表の紹介など)で8月と9月の殆どが潰れた程ですが、北大スタッフが優秀だった事もあって会議がサイエンス的にも企画的にも成功裏に終わり、過去1年半に及ぶ準備が報われました。病気になって以来、初めて企画側に回る国際会議という事で、私のように自ら動けない人間が遠く離れた開催地の人々と一緒に何処まで出来るかという、リハビリの挑戦みたいな意味合いも大きく、その意味もあって研究そこのけで会議の準備に没頭した面もあります。ともかくも会議は無事に終わり、リハビリの大きな一里塚を越えました。

 会議以外でも、2年半ぶりの日本と云う事で色々と挑戦目標があり、その多くをクリアーしています。

(1)介護の代わりに同僚に付き添って貰って日本行きの飛行機に乗る:
  最終的な目標はもちろん単独での長距離便(10時間)ですが、今回はその準備として同僚に往復とも一緒に行って貰い、代わりにストックホリム空港(行き帰りとも5〜6時間の長い待ち時間)で介護を手配しました。時差や長旅の疲れが無い分、ストックホルムでのアレンジは上手く行ったように思います。
  往復でヘルシンキ、行きでは中部空港で乗り換えとなりましたが、空港の身障者担当の人が入国だけでなくチェックインの所まで面倒を見てくれたので、乗り換えに関しては単独でも問題ないように思います。同僚に手伝って貰ったのは機内食に付き物の多くのプラスチックを破る事と、靴の脱着(10時間も足首固定器をつけたまま乗るのは苦痛)ぐらいでした。それでも一回だけ失敗をして、それは中部空港で歩行器を受け取るの忘れたまま税関を抜けた事で、乗り継ぎ便へのチェックインの際に気付いて慌ててアレンジして貰いました。

(2)日本国内の飛行機(札幌ー福岡/福岡ー羽田)を単独で移動する:
  キルナーストックホリム間では何度もやっている事なので、移動自体は何の問題もなく出来たのですが、札幌ー福岡間が急遽、直行から羽田経由に振りかえられるハプニングがありました。なんでも小さな飛行機で乗務員が一人しかいないから、付き添いが無い場合は本人が『自力で立って』移動出来なければ飛行機に乗せられないという規定があるのだそうです。杖を使っての移動は自力と看做すけど、ほんの少しでも他人の肩を床に座り込んでの移動(通勤バスでいつもやっている)は駄目という奇妙な規定で、スウェーデンでは聞いた事がありません。
  チェックインの時に他人の肩を借りる必要がある事は伝えてあったのですが、それが実際に問題になったのが最後のゲート(搭乗券を通すところ)を越えていよいよ機内に乗り込もうとした時(出発20分前)で、それを言われた時も杖でOKなら問題ないと思っていたら、日航の用意した杖は普通のステッキで、手首を全然固定せず、それでの移動はとても無理と判明して、結局、最後の最後で、乗務員の多い大きな飛行機(羽田経由)に振り返られました。こうだと分かっていたらスウェーデンから松葉杖を持ってくれば良かったと思ったものです。実は松葉杖を持って来るかどうか最後の最後まで迷い(機内だけでなく階段などでも非常に役に立つから)、結局『荷物になるから』『歩行器と松葉杖の両方は持てない』という理由で止めたのですが、今後はもっと考える必要はありそうです。

(3)日本のバスと地下鉄に乗る:
  2年半前に山手線に乗っているので地下鉄は始めから心配していませんでしたが、それでも札幌も福岡も乗って(計5回)以前よりも遥かにスムーズに乗降出来る事を確認しました。バスの方はもっと面倒で、長距離バス(会議3日目のfield tripで乗った)や空港送迎バスはこちらの長距離バスと変わらないから始めから心配していませんでしたが、市内バス(福岡で計3回)の方はスウェーデンの車両と全然違うので、それが気になりました。実際、床の低いスウェーデン車両と違って日本の車両は身障者用といっても車高が高く、現実問題としてステップを2段ほど乗降しなければなりません。結局、介護や運転手の肩を借りるという事でケリが着きました。ちなみに身障者割引とか介護割引とか(こちらでは介護は基本的にただ)は有りませんでした。

(4)親戚の家の長い階段の昇降:
  会議が終わった後に福岡の親戚の所に行ったのですが、いずれも長い階段があり、結局登りは2人がかり(2人とも70歳少し前)で支えて貰い、下りは地べたに座って降りる降り方をしました。松葉杖があれば「肩+杖」で昇降出来たのにとも思いましたが、ともかくも10年ぶりに仏壇を拝めたのは何よりです。階段は他にも札幌で地下街に降りる途中で何度か使いましたが、こっちの方は若い参加者+若い介護がついていたので何も問題はありませんでした。

(5)日本の道で長い距離を歩く:
  到着の翌日、さっそく地下鉄で真駒内に行き公園一周プラスアルファで、この日だけで7〜8kmは歩いていると思います。もっともこれは日本の道ではないので、福岡到着の翌日に朝の散歩がてらに2時間程歩きましたが(78歳の女性と一緒に歩いた)、その際に日本の歩道の悪さを痛感しました。特にお洒落を気取ったタイル舗装のせいで歩行器に手すりを止めるネジが何度も緩んで、その度に締め直すという事になって非常に困りました。ここに限らず日本の歩道はとにかく身障者に不便というのが今回の印象で、特に福岡の地下鉄の乗り換え通路が煉瓦道でガタガタなのは、折角の身障者対応車両という長所を完全に食いつぶしていて、せめて連絡通路ぐらいは車椅子や歩行器が困らないアスファルト/ゴムの歩道にして貰いたいものです。その一方で建物の中の床がこれまたくせ者で、とくにピカピカ床の半数以上は(車輪との摩擦で)歩行器に静電気が溜まって、何度もスパークで痛い目に会っています。やみくもに奇麗にすればよいという云う発想は、これまた安全性無視なので困ります。

(6)日本のホテルを車椅子なしで済ませる:
  これはもはや挑戦とは云えず、どこも歩行器で問題なく過ごせましたが、それでもホテルによって施設が全然違い、一番良かったのは東横イン札幌駅西口北大前(しかも一番安かった)、これはヨーロッパを含めて今まで止まったホテルの中でも一・二を争う身障者対応でした。一番悪かったのはKKR博多(しかも一番高かった)で、身障者の事を何も知らない人間が設計してもここまで酷くはならないだろうという内容で、二度と泊まろうとは思いません。最後に泊まった日航成田は年代物である事を考えればかなり頑張っているとは思いますが、それでも足りない所が結構ありました。ホテルのなかでも一番問題になるのがトイレと流しの作りですが、これはホテルだけでなく北大の会館のトイレですら問題だったのには少々驚きました。もっとも、北大の方は、さっそく施設課の人とあって、具体的に身障者の立場から改善点を指摘・相談したので、近々、よりよいトイレに生まれ変わると思います。トイレとホテルの形式に関してはそのうちきちんとした記事にする必要を感じています。

(7)日本の現地介護だけで済ませる:
  2年前のヘルシンキ出張(6日間)の際に現地介護だけで済ませているので、ましてや日本語の通じる今回は問題ない筈だと思って行ったものの、意外な落とし穴が有りました。それは日本の介護の種類が医療介護、在宅介護、訪問介護、通院介護、行動支援などに細かく分かれている事です。これは介護保険が降りる際の報酬がそれぞれ違うからですが(これはスウェーデン的には全く理解出来ない)、現金で払うこっちにそういう違いは無関係の筈で、現に過去2回(スウェーデンから介護を連れて来たのでお願いした時間は短い)でも問題なかったし、札幌の介護でも全然問題なかった(20歳代の介護5人(うち男3人)のローテーションで、事前連絡不十分というマイナス点を補ってあまりある介護陣だった)のですが、福岡でこっちの必要とは異なる人(普段寝たきり老人とかを世話している人)が来ると云うミスに繋がってしまいました。ともかく、上記の2時間散歩で、78歳の人はピンピンしていたのに、介護の方はくたくたになるぐらいだし、老眼なのに眼鏡を持たず、こっちが必要としている「指先を使う細かい事」があまり出来なかったので、次回からはもっと具体的に何が必要かを事前に知らせておくべきだと感じました。

 旅行(というか身障者対応)について細かく書き始めるときりがないのでこのくらいにします。最後に例によって無駄話です。
 スウェーデンでは50歳の誕生日が最大のお祭りということになっていて、日本の60歳、70歳、80歳などのお祭りとは異なっています。私も去る10月4日に50歳となり、本来ならばリハビリ記念も兼ねて大々的にキルナでやらなければなりません。しかし、それでは他の人と同じで単なるパーティーの一つになってしまいます。そこで持ち上がったのが今回の国際会議で、たまたま会議一日目(歓迎パーティの日)が私の誕生日に重なってしまいました。そんなわけで、急遽、パーティの準備の代わりに、会議を成功させる事を目標に付け替え、それもあって歓迎パーティでは誕生日も同時に祝ってもらいました。40歳、50歳と云うのはこういう裏方をするのに適した年齢なので(60歳以降はむしろ祭り上げられる立場になる)、こういう形の50歳祭も悪くないと思っています。もしかすると現在40歳代半ばの多くの同僚が真似するかも知れません。
 ちなみに今月は50歳と云うだけで無く、キルナ在住20周年記念(10月22日赴任)で、こっちも祝わなければなりません。

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