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リハビリ記録その77
2009-4-5
山内正敏
キルナ住民の一番喜ぶ季節がやって来て、キルナ人は野山にスキーや釣りやスノースクーター暴走に出掛けているようです。そういう私も、踏み台昇降訓練をベランダ(Tシャツ一枚)でやりました。
先月書いたように室内用自転車が壊れたので1ヶ月前に新しく買い直しました。6年半前に買った時、一番安いのが 2000krだったのに、同じ会社の性能が殆ど変わらない製品が今回は 1500krで、この6年で室内用自転車が家庭でポピュラーになった事を感じます。もちろん安いだけに違いもあって、それは空回り機能が無くなった事。つまり順方向に漕いでも逆方向に漕いでも同じ力がいるようになりました。これは訓練用としては寧ろ有り難く、特に私のように立ち上がる訓練が必要な人間には逆回りの方が効果的なので、良い買い物をしたと思います。これが値段の高い自転車だと空回り機能がついていたかも知れません。
そんな訳で、もっぱら空回り方向で訓練をしていて、順方向に漕ぐのは3〜4回に1回だけです。その順方向ですが、同じメーカーだけあって、一回転あたりに使う力が前の自転車と殆ど同じで、先月までの記録との連続性を確保するが容易になっています。何度も試した結果、数字の上では1割以下の差しか無く(やや楽になっている)、実感する脚力の向上まであわせると、5%以下の差で古い自転車と新しい自転車は負荷がほぼ同じという事になります。興味深いのは逆回りの方が順方向よりも一割ほど遅い(脚力が足りない)事で、お陰で、この逆回りの記録を古い自転車の順方向の記録と繋げるときちんと繋がります。長い目でのリハビリの効果を記録している身にとっては、非常に有り難い連続性でした。
自転車以外では、階段の訓練を体操療養師でなく介護の補助で挑戦しました。体操療養師ほどの信頼性はありませんが、少なくとも介護の一人は大丈夫です。きっかけは2月末に体操療養師が風邪気味だった時に、近づき過ぎで風邪が移っていけないという理由から、体操療養師の監視の元に介護の肩を借りて(片手は手すりで)昇降した事で、これに力を得て、3月に知人の処で寿司パーティーをした時に螺旋階段を介護の肩+手すりで昇降して、更に先週の体操療養師の時間、体操療養師が風邪で休みだったので、折角膝バンドまでして準備したのだからと、腰にバンドをしてそれを介護に持ってもらい、松葉杖+手すりで病院の階段を昇降しました。リスクを考えると、まだ頻繁にやるべき事ではありませんが、来冬にはもっとレギュラーに介護だけの補助でこの訓練をする事になると思います。松葉杖といえば、他に
膝バンド無しの松葉杖
で、病院廊下5往復(1.6km)を1時間33分で歩くようになりました。ほんの2ヶ月前が3往復を1時間12分でしたから、距離で6割以上、速度も2割以上進展している事になります。
脚力の回復が関係あるのか知りませんが、この1ヶ月は大きなバンに乗る事が多く、乗り方も以前よりスムーズになった気がします。昔のバンと違って、今のバンは座高が高くて、乗る所に踏み台がつく程ですが、それが問題で昨年までは介護と運転手の2人の補助で、2分ぐらい時間をかけてやっと乗り込む有様でした。だから予約もデフォルトは普通の車で、それを予約センターがうっかりしてバンを送ってしまった時とか、車繰りの関係でバンしか車が無い時に乗る程度でした。そういう苦労をするたびに運転手からタクシーセンターへ、次回以降は出来るだけ普通の車を出すように連絡が入って、それでバンは避けられておりました。でも、乗り方が段々スムーズになるにつれて、そういう要求が出される頻度が減り、予約センターも余り気にしなくなって来て、それでバンに乗る機会が増えているのだろうとは思います。が、それにしても過去一ヶ月は本当に急増した気がします。ちなみに、今は介護無しで運転手だけの補助でも30秒以内に乗り込む事が出来るようになっています。理由は乗り込むコツ(足の置き方とか体の傾け方とか介助の使い方とか)を覚えた事以外に、車の手掴みを握ってある程度体を支える事が出来るようになった事があります。未だに完全に拳骨を握る事は出来ませんが、手掴みに手を入れて曲げた掌を曲げたままに支える力はかなりあるようです。
仕事の方は雑務が多くて自分の研究が余り出来ない(賞味で3割程度)忙しい月でした。その最大の原因は
日本学術振興会(学振)ストックホルム事務所
主宰の会議(3月10〜11日)です。
学振というのは研究費を日本の研究者に出したり、外国人ポスドクや研究者交換の為の予算を出したり、日本からポスドクを海外に派遣したりする、いわば有り難い(というか日本の研究者の首根っこを押さえている)組織で、実はその海外派遣プログラムで優秀な日本人研究者がキルナの研究所に来た(トータルで3年半も給料を出してくれた)という実績もあります。現在も、研究所出身の若手が2人、昨年秋から学振の金で日本のポスドク(2年)をやっていて、研究所にとっても有り難い組織です。こういう風に研究を通じた日本の国際貢献と親日家育成を着実に果たしている組織ですから、僕も当然ながら学振の活動には協力的な立場にあります。
その学振ですが、数年前から海外にも窓口が出来るようになり、現在、ヨーロッパにも数ヶ所の事務所があって、ストックホルムにも北欧バルト海八ヶ国の窓口があります。そのストックホリム事務所が、どういう訳か、年に数回、日本とスウェーデンの研究者を合わせたコロキアムを開いていて、今回、そのトピックが我々の分野だったので、裏方としてアレンジを手伝ったのが忙しかった理由です。単に忙しいだけなら徒労感は余りないのですが、今回は主催者の学振が研究の実体を知らないとしか思えないような誤解等が多く、その尻拭いで徒労感が残りました。
一体、スポンサーというのは研究のテーマとかはともかく、実際の日々の研究に口を出してはいけません。これは鉄則です。というのも研究分野や研究者、研究テーマによってベストのアプローチが違うからです。それは研究会(学会とかワークショップとかコロキアムとか色々名前がありますが)でも同じで、純粋な研究会と云うのは科学者主導でテーマや規模(国際か国内かプロジェクトか)を決めるものです。もちろん、科学者主導でなく、金を出す組織が主導してよい会議もありますが、それは、一般向けの宣伝的なものです。
始めにコンタクトがあったのは昨夏で、打診先は私とかシニア研究者とかでなく、昨年6月にスウェーデンの研究費で1年間雇った日本人ポスドクで、質問内容は、日本とスウェーデンの研究者だけで宇宙物理の会議を開くのに誰と連絡を取ればよいのか、というものでした。多国間の国際協力が当たり前の現代の研究で、日本とスウェーデンだけの研究会議って事自体が有り得ないので、会議を開く意義をポスドク経由で確認した所、目的は日本とスウェーデンか共通して取り組んでいるテーマを広く周知させる事で、想定する聴衆は大学の教養の先生レベル。そういう、やや教養レベルのある一般向けの網羅的なコロキアムの講演者を、日本とスウェーデンの研究者で固めましょう(講演者の旅費を学振が出す)というもので、ついでに日本の若手研究者で将来有望な人をスウェーデンに呼んで将来の共同研究の足がかりにするという話です。これなら学振が主宰してもおかしくはありません。
この段階で私が直ぐに表に出て正確な要望を聞けば良かったのですが、学振の希望が宇宙物理とあり、しかも打診が研究所のシニアスタッフでなく新参のポスドク(宇宙物理経験者)だったので、我々のスペース物理(地球太陽系物理の範疇)でなく、天文学に近い宇宙物理が希望であろうと判断して、スウェーデンの宇宙物理の関係者を一番知っていそうな私のボス(元所長)に連絡を取るようにアドバイスしました。これが9月。そして研究所の元所長と学振ストックホルム事務所の副所長が直接会って、いきなりスペース物理でコロキアムをやる事に決まったのが10月です。要するに学振側は宇宙物理とスペース物理の違いを全然知らずに、我々にコンタクトしていたようです。
引き受けた以上は、日本からの招待5名、スウェーデンからの招待5名で我々の分野(太陽、惑星、地球、衛星、それぞれに対して観測、モデル、シミュレーション、45億年スケールからマイクロ秒スケールまで)を全部網羅し、しかも日本からの招待は地域別に分けるというとんでもない条件でプログラム案を組まなければならない訳で、これに、今まで来た事の無い人、というか、この人との共同研究を強化したいという条件を加えて招待リストを決めたのですが、ここで学振が再び無理を言って来ました。会議の日を会場の都合で勝手に決めて来たのです。一般向けコロキアムですから、日程を仕方なく受け入れましたが、それは我々の分野で4つの会議(国際会議2つ(ハワイとイタリア)と日本の研究会2つ)が開かれるのと同じ日程で、何人もの人に招待を断られ、たった5人の枠が全部決まったのが翌1月という惨状です。そもそも3月に会議を開けばこうなる事は学振の人には分かっている筈で、にも関わらずに3月に開催した学振の見識を疑います。
元所長が日本がらみで引き受けたとなると、連絡とかの雑務は自然と私に回って来ます。プログラムを作るまでのやり取りで、どうにも学振のもたつきが多くて気になったので、さすがに不安を感じて学振に1月に電話した所、会議の聴衆を集める自信もメドもないので、ストックホルムで一般聴衆を集めるのを、キルナに住むの我々に期待していたとの事で、その言い訳として、これは一般向けでなく研究者向けの研究会だと話してきました。そもそも、二国間だけの会議を開く事を要請する事自体が、相手の国に対して失礼な行為で、たとえば日本で『日本と**国との二国間だけの一般向け会議を開きたいから、プログラムをよろしく』とヨーロッパの国の全ての国がそれぞれ言って来たら、いかにスポンサーから旅費が出ても、付き合いきれないと怒る人が続出して来るでしょう。その上に一般の聴衆集めまでしろ、というのは非常識です。そして、学振はというそういう失礼な事を年に数回やっている訳です。
さすがに腹を立てて、我々には何も出来ないことを伝えましたが、だからといってこのまま学振に任せていては、わざわざ日本から来てくれる人に申し訳ない事になります。会議の目的を変更し、『共同研究をしたい相手にキルナに来て貰う為の口実』『キルナでの宇宙関係の学生(エリートの宇宙工学高校があるぐらの街)向けの話をしてもらう為の訪問』『将来、共同で国際会議をする具体的パートナーとの顔合わせ』という方針に変えて、更に会議のポスターセッションとかの細かいアレンジとかの指示も出して漸く会議に漕ぎ着けました。簡単な報告は
学振だよりNo.22
の6〜7ページ目に書いておきました。
一方、会議とは別にスウェーデンのスペース物理関係者が集まる研究会が2月末にあります。学振の会議が一般向けである事と、その為の会場を確保している事から、専門的な話をするスウェーデンのスペース研究会は別の日程という事になりましたが、この事を学振に話すと、そういう会議に日本からの研究者を呼ぶという形が一番あり難かった、と暢気な事を言って来ました。要するにマニュアルも何もなくて我々に『会議を開きたい』と言って来た訳で、これは無能を通り越して、役所そのものです。結局、この役所組織の主宰の尻拭いでトータルで賞味1ヶ月の時間をこの会議の為だけに費やしました。
会議のあと、会議報告論文集を参加者にお願いしたいと言って来ましたが、幸い、スライドをウェブに載せるだけという事で話が決まり、ややほっとしています。それでも学振の所長は不満そうで『旅費を出したんだから報告論文集を出せ』みたいなニュアンスでした。恐らく、そういう報告書を出す事が彼の業績として評価されるのでしょう。そして、旅費さえ出せば、科学者は多くの時間を費やすのだろう、と思っているいるのでしょう。そこに人件費とか科学者の健康とかという概念はありません。もちろん私が25%病休で、残業などしてはいけないという事など、この所長は何も考えていないに違いません。これでも博士持ちの研究者だそうです。
今回の会議で分かった事は、学振という組織、つまり日本に於ける研究のスポンサーが研究者を奴隷と同じように見ている事です。少なくとも研究者の時間を全く尊重していない事は確かです。だから、もしも私が日本に帰ったら(つまり学振のやり方では)、リハビリと研究の両立は不可能だし、それどころか過労でギランバレーが再発する事は間違いありません。
と、重い話が長くなったので、最後の無駄話は4月1日ネタ。以下は研究所の研究者全員に出したものです。
From: M. Yamauchi
Date: 1, April 2009 19:48:05 CEST
Subject: Moon Ice and....
Press Release (draft),
2009-4-1, Kiruna
The Indian Moon mission Chandranyan-1 has a Swedish instrument SARA which is supplied by IRF-Kiruna (PI: Prof S. Barabash). The SARA instrument, which has been working since January 2009, found unexpected signatures of neutrals coming from the moon surface. The team is still arguing about the origin of these neutrals but everything points to SARA confirmed existence of water ice on the moon surface. The mass analyses suggests that the detected neutral includes heavy molecules in addition to water. Furthermore, the energy spectrum of the detected neutrals shows characteristics peaks indicating that water comes from more complex baring matrixes than simple rocky surface. The data fit perfectly if we assume complex structures such as clothes or string-like carbo-hydro. The imaging capabilities of SARA allowed to obtain spacial distribution of the emitting regions. It turned out the neutral emissions come from a few spots of a size of tens cm located around the Apollo landing sites. It is quite possible that Appolo has contaminated the moon by human products. The exact nature of the products require further studies and extra on-ground calibrations following methods recently developed at IRF and using facilities allowing access to running water. Since this finding tatches the sensitive issue of planetary protection, the team decided not to spread it to India or China because those country might convert the scientific issue to a political issue that is beyond our control. For more detail, please access
www.irf.se/~yamau/moon.html
SARA team / IRF-Kiruna
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