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リハビリ記録その42

2006-5-14
山内正敏

 ここ10年では一番雪解けの遅れた春でしたが、それでも4月末にはアスファルトの道路が戻って来て、早速訓練を始めています。特に先週末は3日続けて20度を超えたので、かなりの距離を歩きました。今週末は雪解け後初の大雪なので、やや大人しくしています。

 発病から4年半が経ったので、まとめのページを(写真、動画付きで)更新しました。上記のホームページです。サーバーの関係で日本語対応が不完全ですので、お読みの際は web ブローサーの文字コード設定を"iso-2022-jp"にして下さい。

 一番大きい進展は低い松葉杖と床運動で、特に床運動では(動画にはありませんが)膝で立った状態で前進出来るようになっています。生活の方でも、自力で出来る範囲が増えて、たとえば洗濯室での作業がかなり自力で出来るようになりました。洗濯と言っても全自動ですので、作業自体は洗濯機からの出し入れと、乾燥機に干す作業だけですが、これが結構難しくて、最近になってやっと出来るようになりました。ただ、洗濯物を持ってのエレベーター移動と洗剤投入がまだ出来ません。
 歩行の方は、肘歩行器だと膝バンドなしで坂道の上り下りが出来るようになった他、普通の低い歩行器で7キロ以上歩く事も出来るようになりました(6キロを1時間50分)。もっとも、7キロも歩くと介護の方が音を上げるので、あまりしょっちゅうは出来ません。他に、 平行棒での歩行訓練 で、両手を棒から離した状態で1歩半進む事が出来るようになりました。膝バンドで支えているお陰という事もありますが、それでも大きな進展で、この分だと秋には補助無し(膝バンドと足首固定器だけ)で10m程歩けるかも知れません。

 以上は4年半段階での進展ですが、今週はもう一つ大きな山を越えました。それはストックホルム出張です。
 5月8日(月)〜11日(木)の3泊4日で行って来たのですが、今回の挑戦は現地介護です。つまり、私の個人介護を連れて行かず、全く初顔合わせの介護に頼んで見ました。2年前にも、もっと近場の日帰り出張で現地介護を頼んだ事がありますが、その時の介護は以前私の所に臨時介護として来た事のある人で、しかも出張にはキルナの同僚が付きっきりでした。今回は全てが違います。泊まりがけである上、介護は全く知らない人で、しかもホテルには同僚が一人も泊まっていません。だから、殆どすべてを自力でやるという前提になります。
 準備の流れは以下の通りです。
(1)突然、会議の話が入って、ほぼ同時に参加方針で準備を始める(2ヶ月半前)。この段階では私の介護を連れて行くつもりだった。
(2)ホテルと会議場の身障者設備のチェック(2ヶ月前)。問題はあるが、どうにかなるという事で参加を決める(1ヶ月半前)。
(3)現地介護の可能性を色々聞き回る(1ヶ月半前)。なんとか民間の介護会社を見つけ、キルナ市に紹介する(費用とかは市が直接交渉する)。
(4)旅行日程並びに介護日程の決定(1ヶ月前)。これを受けてストックホルムの介護会社が介護を適当にアレンジする。
(5)介護とのコンタクトの為に携帯電話を入手(2週間前〜3日前)。
(6)同じ飛行機に乗る同僚がいるかを聞き回る(1週間前)。
(7)出発。
 準備期間が短かったので、当初は私の介護を連れて行く積もりでしたが、幸い、タイムリミットギリギリになってストックホルムの介護会社が見つかったので(日本人の知り合いが教えてくれた)、急遽予定を変更して、現地介護を試してみる事にしました。ちなみに今までキルナ市はこういう外注をやった事がありません。いつも、個人的に知っている人に(キルナで介護の経験のある人は全国各地に住んでいる)キルナ市が直接連絡を取る方式でした。しかし、その知り合いというのが何故かストックホルムにはおらず、仕方なく、民間会社に外注する事になった訳です。
 こんな簡単な事(外注)が何故今まで行われなかったかと言うと、私が介護を連れて行く場合、介護の航空券もホテル代も私(研究所)が持つ訳で(今回の場合10万円)、キルナ側の余分な負担は介護の出張手当程度なので、現地介護だろうが介護を連れて行こうが、市側にメリットが余り無いからです。しかし、今回に関しては現地調達が良かったようです。というのも、私が連れて行く予定にしていた介護は、足の痛みで、長い距離を歩けない状態となり(普通だったら病休になるような状態)、とても出張には耐えられなかった(或は直前キャンセルになっていた)からです。私がキルナ市に「現地介護」を主張した表向きの理由も、介護が病気で突然行けなくなった事態の想定でしたが、それが実際に起こってしまった訳で、つくづく、現地介護にした最終判断は正しかったと思います。
 こうして現地介護のアレンジが済みましたが、次は現地介護へのコンタクトの方法が問題になります。2年前の日帰りの時と違って、ストックホルムの大きな空港で全く始めての人と会う訳ですがら、運悪く会えなかった場合の事を考えなければなりません。となると、携帯電話は必須でしょう。実は私は今まで一度も携帯電話なる物を持った事(借りた事)はありません。そんな訳で、新たに入手する必要があります。ところが、悲しいかな、最近の携帯電話は複雑かつ小さくなる一方で、私のように指の不自由な人間の事を全く考えていません。現に同僚の持っている携帯電話はどれも使えませんでした。そこで、旧式の携帯電話が借りられないか同僚に尋ね回ったのですが、近年の電気製品の例に漏れず、4年以上古い携帯はバッテリーが今では使い物になりません。
 こうなると携帯以外の方法が必要です。慌てて同じ便でストックホルムに行く同僚がいるかどうか尋ね回りました(first contactだけの問題ですから)。それと並行して、市内最大の電話ショップに行って、そこにある数十種の電話を全部試してみました。実は、つい最近、日本で老人向けの携帯が出始めたらしいと聞いていたので、その種の機種があるかと期待したのですが、残念ながら店にもカタログにも老人向けはありません。それでも背に腹は代えられませんから、ギリギリ使えそうな奴を2機種見つけ出し、そのうちの1機に当たりを付けて同僚と相談しました。こんな風に頑張って準備すると良い事もある訳で、別の同僚で同じ飛行機に乗る人間が見つかり、ここに至ってやっと一安心しました。
 で、携帯の方ですが、どうせ私の所属するチーム(教授を除いて、大学院生を含む総計7人)に出張専用の携帯が必要な事は目に見えていたので、私が使えるかどうかはともかく、少なくとも共用の携帯を買うべきという結論になって(そうなると、たった1つの電話番号で全員の出張連絡先が兼ねられる)、結局、私が当たりを付けた機種を買う事になりました。結果的には私の指の回復度がギリギリこの携帯使用に間に合っていて、最低限の機能は使いこなす事ができ、しかも現実に携帯電話は受信と送信の両方で役に立ちました。
 特に最終日のキルナ便は1時間も遅れて、その為にタクシーが全く足りなくなり、ピストン輸送の2回目に私を乗せてくれたのですが、その待ち時間の15分間(深夜0時15分〜0時30分)は空港の外には私一人しか残っておらず(しかも気温+1度のみぞれ)、タクシーの来る直前に警備の人が心配して私の所に来てくれた程で、携帯がなかったらさぞかし心細かったと思います。もっとも、携帯があったからこそ、介護には空港でなく自宅で待つように言ったという事情はありますが。
 ちなみに携帯電話をいろいろ調べた結果ですが(カタログには Sony-Eriksson, Nokia, Samsun, Motrolaしかない)、その中ではSamsunが唯一なんとかなり、一番悪かったのがモトローラとSony-Erikssonです。Samson がマトモだったのは、韓国で日本の企業と競争しているからかも知れませんが、それにしてはSony-Erikssonが1機種もマトモな物を出していないのが不思議です。ちなみに、Eriksson時代は万人に使いやすかったのですが、Sonyとの合弁になってから、若者向けデザインを追求するようになったみたいで、使いにくくなりました。極めて残念です。

 このような長い準備が終って、いよいよ出かけた訳ですが、それでも問題点だのハプニングだのは当然ありました。先ず第一に、ストックホルムの現地介護が長い不便そうなスカートで現れた事です。服だけでなく全体の出で立ちも、とても介護の格好とは思えません。しかも移民のせいかスウェーデン語でのコミュニケーションが上手く行きません。私を不安にさせるには十分です。
 介護の給料は全国どこも同じで(時給1500円で、この他に雇い主は時給1000円程度を税・年金として払っている)、これは物価の安いキルナでは子供2人を育てて粗末ながらも別荘すら持てる金額ですが、ストックホルムで生活するには厳しい金額で、その結果、介護に占める移民の割合が高くなっています。となると、スウェーデン人の介護や移民でも技術のある介護(私の個人介護の一人もそうですが)は、とっくにパーマネント職を得ているに決まっていて、私のように4日間だけ必要な場合は移民が当てがわれると思って間違いありません。現に1ヶ月前に告げられた介護の名前は明らかに移民系で、実際に現れたのも7年前に戦争難民としてアフリカから来た人でした。当然そこまでは覚悟していて、それゆえコミュニケーションが最大の問題であろうと予想していたのですが、まさか、出身国の習慣(格好)をそのまま残しているという所までは予想出来ません。もちろん、完全麻痺の人間には彼女の格好で事足りるでしょうが、私のようにあちこち動きたがる人間(車椅子だから速い)には不向きです。現に、2日目はかなりの日差しで、その中を昼休みに少し歩いたのですが、彼女は直ぐに音を上げてしまって、私の行動が制限されてしまいました。また、車椅子で車道から歩道に上がる技術とかも知らずに、こまごまとした行動では不便な思いをしました。
 もっとも、彼女の為に弁護するなら、まず第1に、英語でのコミュニケーションがきちんと取れたという事で、その点は普通の難民と違います。また、準看護の教育は受けている人だったので、ホテルでの作業はスムーズでした、従って、これが私のような奇妙な身障者でなく、普通の重度の身障者なら、(しかも私が日本人である事を考量すると、)彼女みたいな人がぴったりだったに違いありません。このあたりのズレが「始めてのアレンジ」に伴うリスクかとは思います。従って、彼女のようなケースも想定から大きく外れてはおらず、その意味では比較的スムーズに行きました。あと、移民ゆえに、スウェーデンの色々なシステムに疎いという部分もありましたが、これについては幸か不幸か、私の正規介護の一人が東欧出身(2年前に来たばかり)で、この手の問題には慣れているので、事なきを得ています。
 かように、介護がらみのトラブルはさほど大した事は無かったのですが、より大きな問題がホテルと会場にありました。ホテルに事前に問い合わせた段階では、手すり付きのトイレのある部屋があるとの事でしたが、行ってみると何もありません。テクニカルサポートの人を呼び出していろいろ聞いてみると、問題の手すりは移動式だそうで、それが何処の部屋にあるのか分からないとの答えです。とはいえ、明らかにホテル側の落ち度ですから、さすがに焦ったようで、明日まで我慢してくれれば工事すると言って来たので、幸い、受付の横の小さなトイレが小さいなりにも手すりがついているのと、会議場(科学アカデミーの建物)にも身障者用のトイレがある事から、1日ぐらいなら大丈夫だろうと判断して取りあえず試してみるとことにしました。もちろん翌日にはしっかりした手すりが付いていました。いかにもスウェーデンらしいエピソードです。
 会議場の方は科学アカデミーという名前からも予想されるように非常に古い建物で(その階上にノーベル賞審査委員会が入っているような建物)、しかも小高い所に建っている為に坂が異常にきつく、介護無しにはどうにもならないレベル(そのくらいの急坂があった)でしたが、問題はそんな事でなく、一番の問題は歩道でした。バス停から科学アカデミーの入り口交差点まで歩道が続いており、その入り口からアカデミーまでは車道だけになっているのですが、歩道から車道に降りようにも、どこも大きな段差のままで、他人の補助なしに車椅子の類いが車道に降りる事は全く不可能です。歩道に上がる方に至っては介護1人では無理で、これがもっと重い電動式車椅子だったら介護が2人いても対応がつかない所でしょう。歩道と車道の段差の問題は、アカデミーの近くのバス停(ストックホルム大学の中央バス停で、横には地下鉄の駅まである)にもあって、下り線のバス停は問題ないものの、上り線のバス停は車道の中のアイランドになっていて、そのアイランドが完全な段差のまま、車椅子ではまさに取りつく島がないのです。市バスの殆どが車椅子対応だと言うのに!
  この事から見えるのは、バスを使う車椅子が皆無に近いという事でしょうか。現に3日半の滞在でバスで移動する車椅子を一度も見かけませんでした。身障者タクシーが発達している証拠であると共に、坂道ばかりで車椅子に向かない街であるという事情はありますが、ちょっと寂しい気はします。ちなみにバス代(本来なら300円強)は介護共々無料でした。
 会議場は演台が車椅子対応でなく、3段ながらも段差を登る必要があります。非常に広いので私みたいな軽い車椅子なら3人もおれば軽々と昇降出来ますが、重い電動式だとまず不可能で、少なくともホーキング博士がここで講演出来るとは思えません。それを除けばさほど悪くはない施設です。他にはトイレに関して軽い混乱がありました。
 2年前の 米国コロラドでの教訓 から、トイレについて事前に尋ねたのですが、その時かえって来た答えが、
「信じられないと思うが、ここの身障者トイレは、ロビーの女子トイレの中にしかない」
というもので、これが理由で女性の介護を要求したのです。そうでなければ私の行動度からすれば男性介護が良いに決まっています。ところが、実際にアカデミーに行くと、くだんの身障者トイレは始めから独立した個室で、それがたまたま(数の足りない)女子トイレ兼用になっているだけの事でした。しかも、そのトイレは受付の目の前にあり、常に受付の人が中に人がいるかどうかを教えてくれる訳ですから、会議参加者と鉢合わせする心配すらありません。これほど完全な身障者トイレですら一応警告してくれるのがスウェーデンで、全ての身障者トイレを男子トイレか女子トイレの中に入れて平気でいる国(もっともコロラドしか知りませんが)とは訳が違うようです。
 こんな風にマイナーな問題点はあったものの、旅行自体は大きなトラブルもなくスムーズに終り、現地介護のみだけの旅行という一里塚を更に進んで満足しています。他の今回の旅行の副産物として携帯電話が使えるようになったという点もあります。一応、グループ所属の電話ですので、これを機会に私も個人的に手に入れるかも知れません(ただし、日本で販売の始まっている老人用がスウェーデンでも販売される後ですが)。あと、ストックホルムでは車椅子ですらバスが便利だというのも新しい発見で、次回からホテルを選ぶ際の指針(会場までバス1本で行ける範囲にホテルを選ぶ)にしようと思います。それから、これはリハビリとは関係ないですが、科学アカデミーで日本風のツツジとシャクナゲを(スウェーデンで始めて)見ました。植物の中では日本のツツジ(特にクルメとキリシマ)が一番好きなので、どうにかして手に入れようと思います。

 さて、会議以外の大きな事件ですが、それは植物油(ショートニング)を消化出来なくなった事です。4月中旬に介護が(彼女の)誕生日記念に作ってくれたドーナツを食べた所、その油が消化出来ずに1週間ほど油性の下痢に悩まされました。便が植物油でぬるぬるです。昨日もショートニングを多めに使った市販クッキーを食べた所、昔なら全然問題なかったのに、今回はおかしくて、今日の便が油まみれになっていました。植物油に間違いありません。考えてみれば。1年半ぐらい前から出始めた胃石も、ピーナツ系の油が消化出来ないままに固まった物らしく、要するに植物油の消化能力が無くなったようです。ギランバレーの後遺症というか、継続の一環として体内の分泌がおかしくなっているとは何度も言って来ましたが、これもその現れでしょう。 この手の研究 は国内外を問わずに誰もやっておらず、非常に残念ですが、そのうち、ウーミオに行く機会にでも神経内科医と相談して、研究の促進を訴えようとは思います。本当なら、これは臨床でなく、基礎研究系の医学者に相談した方が良い内容ではありますが、キルナにはそのどちらもおりません。ちなみに動物性油脂(特に乳脂肪と魚系)は今のところ問題ありません。
 神経内科といえば、日本ではリハビリの制度がかわって現場が混乱していると聞きます。なんでも2月に厚生省のナントカ審議会が出した答申で、リハビリ期間の上限を発病から6ヶ月(運動神経関係は5ヶ月)に制限するというものが出されて、それがそのまま3月に公布され、4月1日発効となったそうです。私の例を見るまでもなく、呼吸器を必要とするほどのギランバレーの場合。リハビリが半年で終る事なぞ全く有り得ないのですが、その種の例外事項がきちんと書かれておらず、現に、4月以降のリバビリを拒否された患者もあると聞きます。答申内容があまりにも杜撰だったので、(海外在住で関係ないにもかかわらず)、私ですら、例外規定を問いただす質問を、厚生労働省のホームページにある質問室に(3月中旬に)出したのですが、私のみならず他の患者の出した質問にすら、質問から2ヶ月近く経った今も戻って来ません。厚生労働省の酷さは薬害エイズ等で噂には聞いていましたが、今回はその杜撰さを実感しました。それに比べると、色々細かいも問題はあっても、スウェーデンでこの病気にかかって本当に良かったと思います。
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