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リハビリ記録その４０

2006-3-05
山内正敏

　３月というのに大寒波の到来で、あたり一帯マイナス３０〜３５度、比較的暖かい市内でもマイナス２０度という、歩行訓練に全然向かない日々が１週間続いています。それでも、昨日なんかちょっと探し物があって、キルナ中の店を点々と３時間以上もはしごして、介護ともども凍てつく思いをしていたりしています。
　さて、リハビリの方ですが、１月に色々な事が急に出来た反動で、２月は目立った進展もありませんが、それでも 朝の床運動 や、週末夜の自力就眠などで体の動きがやや滑らかになった感じがする他、 普通の短い松葉杖 での歩行距離も２００mを越えるようになっていて、着実に回復を感じています。このような身体的回復は毎月のことですが、この１ヶ月は仕事の方での回復を実感した月でした。
　退院以来の研究は、主に入院前の仕事の継続で、たとい新しい衛星のデータの解析であっても、以前から見ていた現象を別の次元から解析するというものでした。それが一段落つき、気力も充実して来たので、いよいよ、全く新しいデータで全くのゼロから解析を始めるという事を２月になって始めました。データは欧州宇宙機構（ESA）の火星探査機のプラズマデータで、火星に２年前に到着したものの、リハビリ開始直後に始めた別の解析３件がきちんと仕上がるまで手を付けられず、僕の参入を待っていた同僚を焦らし続けていたものです。もちろん、全く新しい分野の新しいデータの解析である上に、同じデータを数チームの人間（１０人弱）が見て、探査の主要目的に関する事は彼らがやっている訳ですから、一朝一夕に研究成果が出る筈筈はありませんが、それでも、そういう先入観なしにデータを見てこそ気付く面白い現象だっていくらでも転がっている訳で、まもなく発表に値する研究を思いついて、あれよあれよと言う間に先週の火星会議でのポスター発表にこぎ着けました。そこまで３週間足らず（予稿集の印刷開始１時間前に、１０分足らずで予稿を書いて送った）。その３週間も、リハビリ優先できちんと75％労働を守ったもので（科学者の１００％仕事は、週５０〜６０時間を意味しますが、私の７５％は本当に週３０時間です）、その時間には、もちろん学生指導（週５時間以上）や会議の時間が含まれますから、正味の時間は非常に少なく、この早さには病気からの回復だけでなく運の良さも入っているでしょう。ちなみに、昨年までもキルナでの会議というのは色々あり、発表のチャンスもあったのですが、発表には至っていません。
　一方、身体の方の回復は、会議後の夕食にもフル参加するという形で現れています。今までだったら、１日おきぐらいにしか夕食に行けなかったと思いますが、今回はきっちり毎日付き合って、そのうちの２回に至っては寒波の中、街まで片道３０〜４０分かけて歩行器で行き、散々ビールを飲んでおります。遠来のチームメンバーと食事に行くというのは極めて有意義な行為ですが、昨年まで殆ど出来ず、今回ようやく解析がらみの議論がスムーズに動き始めました。今はその反動ですっかり疲れていますが、それでも出張の後のように１〜２週間休暇が必要という状態ではありません。
　このように総じて良い状態ですが、やはり今回も悪い事もあります。それは一番古顔の介護が鉱山会社に転職すること。仕事時間が変わらなくて給料が２倍近くになるのではやむを得ません。実はキルナは鉱山の拡張（ リハビリ記録２３ を参照）を控えて鉱山や土建会社の雇用が急激に増えており、彼にも声がかかった訳です。とりあえず、明日から半年間の休職（こちらでは、転職の際は一旦休職となって、休職期間が終わる前に転職するか復職するか決めるシステムになっている）ですが、十中八九戻って来ないでしょう。彼に限らず、いまや役に立つ男性介護を確保するのは困難で、今度の補充では全員女性になる事を覚悟しなければなりません。旅行とか力を必要とする移動とかでちょっと不便ですが、幸い私の回復がかなり進んでいるので、なんとかなりそうで、そういう意味では、よくぞ今まで移らないでくれたと言うべきでしょう（転職の話は１年ぐらい前にもあったらしい）。
ちなみに彼は私の介護を始める前は電気販売店の店員でした。私が退院した時に５人採用した中で、唯一・介護／病院関係の経験・教育の全くない人間でしたが、学習能力のある人間というのは、どんな仕事にもつけるもので、それを立派に証明した珍しい例として、市の福祉部でも珍重されていたようです。彼の補充が決まるまでは、暫くは３年前の古顔（４０歳代）と２月から採用した新人（２２歳）という陣容で、信頼出来るメンバーを失って古顔が嘆いているのはいうまでもありません。
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