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リハビリ記録その143

2014-9-28
山内正敏

 こちらは例年どおり9月中に積雪(21日未明と24〜25日)があり、火山灰でなく雪で白くなっていて、雪の合間も、例年の小春日和でなく木枯らしの寒い天気となって余り外出には向きません。もっとも今年は13〜21日の9日間出張で、天気に関係なくキルナでは歩けませんでしたが。

 今回の出張は久々に非常に大変な旅行となりました。行き帰りの日程(行きはストックホルムで8時間待ちで、帰りはストックホルムに午前3時に着いた)はともかく、何よりも学会場(この地域で一番高層の高級ホテル)も私が滞在したホテルも、更に2ヶ所を結ぶ道路も『全く』身障者対策がなされておらず、その意味では(2004年の米国行きや2005年の日本行き以来の)サバイバルに近いものとなりました。何とか病気や怪我をせずに戻れてホッとしていると共に、今後の為の教訓となっています。
 行き先はギリシャのロードス島のロードス市から5キロ離れた海岸で、健康だったら恐らくは理想の出張先の一つでしょう。現に北欧人にとっての人気観光地の一つとなっていて、夏シーズン(5〜10月)には、毎週末にチャーター便と専用ホテル滞在のパッケージツアーが数多く出ていて、海岸では海水浴をしている人も数多く見られたし、同僚も空き時間に泳いでおりました。大抵のホテルには日光浴可能なベランダ以外にプールがあり、海が時化ていたり、バー兼レストランの近くで日光浴をしたい場合はそこで泳げるようになっています。
 逆に言えば、全てのツアー(とホテル)が泳ぐことを前提に設定されていて、泳げない者はもちろん、私のような身障者が来ることを全く考えていないインフラ・ホテル・サービスとなっています(そういうホテルは反対側の高級ホテル海岸にあるのかも知れないけど不明)。本来ならそういう場所での会議は参加を見合わせるべきだし、昨年までの私ならそうしてましたが、今年は仕事の関係(私主宰の分科会を設けなければならない)で、どうしてもこの会議に参加参加せざるを得ませんでした。

 具体的には以下の困難がありました。
(1)会議場のホテルのフロア:会議場がフロントと同じ階だというのに、そこから先ずスロープ(これは許容範囲)を昇り、そのあと会議場に向かって急な下りになっているのですが、この下りの傾斜が段差1m(階段7〜8段)をわずか5m(20%勾配)でカバーすると言う非常識な作りでした。ブレーキを最大限にかければゆっくりと降りられますが、ブレーキがいつ甘くなるか分からないので、横に介護がいないと怖くて降りられないレベルです。

(2)会議場のホテルのトイレ:広大なフロアに本当の意味での身障者トイレが一つもなく、辛うじて会場よりも更に奥のポスター展示場領域の男女トイレそれぞれに広い個室があるだけです。この個室は手すりの類いは一切無い癖に、便器が普通のトイレ並みに低く、介護に歩行器を押さえてもらわないと、自力だけで直接歩行器へ立ち上がるのが不可能で、私ばかりか車椅子の人にも便器へ(から)の移動は無理でしょう。更に水洗ボタンが、小さくて硬いボタンを中に押し込む方式で、指の力が相当強くなければ押すことが不可能です。私は毎日何度も挑戦したけど一度も成功しませんでした。要するに大はおろか尿袋を空けたあとすら水を流すことができない代物です。こんな「身障者」トイレは身障者になって以来見たことがありません。ほかにもドアや私にはロックできない鍵で、要するに、単に広いだけの健常者専用トイレです。これを身障者用と言うホテルの感覚には呆れるしかありません。もしかしたら「高級蛍だから他より身障者設備がしっかりしている筈で文句をいわれる筋合いはない」と従業員が思い込んでいる可能性(高級ホテルには時折ある)があります。
 この「身障者トイレ」以外で私の歩行器がドアを通過できるような広いトイレはなく、せめて流しボタンの上に何か硬いもの(例えば1円玉を10枚重ねるだけで、指で押し込む代わりに掌で押し込む形にできる)を置いて使用可能にするように申し込んだのですが、1日目と2日目は「何が問題なの?」と無視され、今度は会議の現地マネージャーを通して問題を伝えたところ、3日目は「便器がそのように製作されています」という返事(ちなみにホテルの便器は問題なかった)で、4日目は「出来るだけ早く改善します」という返事でしたが、とうとう最終日まで全く改善されませんでした。高額の会場使用料+多くの宿泊客+昼食券を払っている会議運営側の要求を無視するようなホテルなので、正直、このホテル(身障者室があると謳っている)に泊まらなくて幸いだったと思います。
 ちなみに介護抜きで何も出来ない「身障者トイレ」ということは、介護(若い女性)が男子トイレの中で私を待たなければならないことを意味しています。不幸中の幸いでトイレが人気のない場所にあったので大抵は問題ありませんでしたが、それでもポスターの準備等で参加者の一部(ほとんど男性)はトイレから丸見えのところにいたり、男子トイレだけが詰まっていたりして、2度ほど女子トイレを使わざるを得ませんでした。全く不愉快な会議場だったとしか言いようがありません。

(3)泊まったホテルのバスルームのドアが狭くて歩行器が通らない:前もって旅行代理店に「身障者ホテルは無理でも、トイレのドアが広ければどうになできる」ということで、ドアサイズ70センチ以上を要求したのですが、現実にはホテル側は旅行代理店に「広いバルコニーに直接出れるから身障者も大丈夫な筈だ」と説明したようで(差額2万円弱はドブに捨てたようなもの)、どうやって便器に座るかでかなり苦労しました。伝言ゲームでは正しい情報が絶対に伝わらないという典型です。トイレの水洗ボタンがスウェーデン式の簡単な奴でなかったら、本当に目もあてられないところでした。本当は直接確認したかったのですが、メールアドレスも、いつ電話が通じるかという時刻も代理店が教えてくれず、しかもかなり慌てて予約した為に、このような間違いが起こってしまいました。この代理店を今後使うことは無いでしょう。
 もっとも、そのようなリスクを冒すだけの価値のある値段で、しかも、たとい歩行器でトイレに入れなくともトイレの入口に椅子を置いて、そこに一旦座ってから尿袋を空けるなり便器に移るなりすることは可能だろうと踏んでいたので、今回のような冒険となりました。そんな訳でトイレはギリギリどうにかなったのですが、その奥の洗面やシャワーは全く使えず、丸1週間の海水浴日和(快晴28度)をシャワー無し(体を拭くだけ)で済まさざるを得ませんでした。洗面の方は、アパート形式(欧州のバカンス用ホテルはどこも滞在型)ホテルだったお陰でキッチンで出来たのでなんとかなっています。
 ちなみに、ホテルと直接交渉できなかった最大の理由は、今回初めて「ホテル込みパックツアー」を利用したからです。その結果、会議場となる高級ホテルに滞在すると、どんなに格安航空券を使ってもだと介護と2人で60万円かかるところが総費用30万円で抑えたのですから、決して悪い選択ではありません。もっともパックツアーのオプションには別のホテル(会議場にも近いし評価も高い)もあり、2人で5〜10万円ほど高くともそちらにしたかったのですが、同僚2人がさっさとこのホテルを予約したので、いざと言う時に介護以外の助けが欲しかったところから、このホテルになってしまいました。まあ、仕事が無事にすんだので結果オーライですが、綱渡りだったことは否めません。

(4)道路が歩行器や車椅子を全く考えていない:狭い車道の交通量が多い上に、歩道が歩行器や車椅子の全く不可能な高さ(+数多くの段差)になっていて、マトモに歩けないのも苦痛でした。会場へは、満員バスが15分おきに運行しているのに何とか乗って行きましたが(運転手は親切だった)、折角の「最高のリゾート」を全く楽しめなかったのは残念な所です。

(5)空港のトイレ:空港には身障者を飛行機荷物口まで昇降させる特別車が備えているのに、トイレは便器が壊れていたり中蓋が紛失していたりと、まるで1990年代前半のモスクワ空港を思わせる散々な状況でした。聞けば介護が使った女子トイレでも中蓋が抜けていたそうで、きちんとメンテすれば立派な近代的空港なのにと思わずにはいられませんが、恐らくはギリシャ危機で不況になったしわ寄せでしょう。経済危機の影響は、金曜午後3時から簡単なバスツアー(リンドス)に行った際、大量の建物(住宅っぽい)が建設途中で放棄されているのを見ても実感しています。今後の出張の際は、経済危機(お陰でホテルや食事は安い)の国は公共トイレにしわ寄せがくると覚悟して避けるべきなのでしょう。

 ともあれ、ロードスでの7泊サバイバル(まったく生き残ったという言葉が相応しい)で、相当に酷い環境やかなり狭いトイレでも、介護さえ居ればどうにかなる自信がついたのは大きな収穫でした。出来る筈だというのと、実際に体験したのでは、自信が全然違います。
 あと「ホテル込み休暇むけパックツアー」を私でも何とか使えると分かったのも大きな収穫です。パックツアーは空港からホテルへの送迎もやっていて、しかも泊まり客の多くが北欧人なので、いざと言う時の安心感も違います。なによりも値段が魅力的で、飛行機が週一便(1週間滞在または2週間滞在が前提)しかないものの、ストックホルムからロードス(4時間)までホテル交通費込み7万円(私は無駄に大きな部屋で9万円以下)というのは、私が介護をつれて個人的なバカンスを取る場合にも使えそうです。
 あと、こんなことでもない限り、一生ロードスには行かないだろうと思っていたので、神話(神殿とリンドスの村)と歴史(ロードス砦)の島に行けたのはある意味ラッキーといえるかも知れません。二度と行きたくありませんが(会議があっても)。

 最後に例によって無駄話です。
 私が出張に出かけていた9月14日にスウェーデン総選挙(県議選挙も市議選挙も同時)があり、私は初めて不在者投票(県議と市議)してきました。選挙の結果、前回の選挙より左派が票を3%伸ばして(右派は10%減)8年ぶりに社民党政権に戻るらしいものの、移民排斥の極右が13%の得票(14%の議席)を獲得してキャスチングボートを握り、極めて不安定な内閣になりそうです。もしかすると右派の提出する予算案が通ってしまって年内に解散または再選挙になるかも知れません。ちなみに極右に流れた票の3分の2は右派からですが、3分の1は左派からで、欧州でいう極右が日本の右翼と全然性質が違う(実際、極右は軒並み社会保障の充実を謳っている)ことが伺われます。
 キルナでは研究所の同僚(45歳)が比例代表の市議になりました。研究所は国立(文科省直轄)ですが、この国に兼業禁止条項はなく、多くの公務員(例えば県病院の看護師とか)が市議になっています。市井の声をきちんと網羅するなら当然でしょう(日本だと癒着の問題とか出そうですが)。ちなみに市議会は月一回、月曜午後に開かれるそうで、通った本人は、研究の障害にはあまりならないと期待しています。

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