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リハビリ記録その68
2008-7-6
山内正敏
4週間前(前回レポートの直後)からキルナは再び天候不順で、積雪も2回を数えています。春以来、暖かい好天というのは5月末〜6月頭(前回レポートの直前)の10日間だけで、このままでは2年連続の冷夏になりそうな気配です。そんな訳で、長距離訓練はちょっと回数が足りませんが、それでも、この1ヶ月は、それを補って余りある経験や挑戦で、かなりの進歩があります。
1つ目の挑戦は3週間前に同僚宅に夕食に呼ばれた時の事で、中二階に食堂がある所から、今までは車椅子で行っていたのを、今春日本での階段登りの成功をきっかけに、今回は彼の家に歩行器で行って、そのまま、2人の肩につかまって食堂まで登った所は予定通り、その後、他のゲスト連中が二階で団らんを始めた時、始めは同様に登るつもりだったのが、そこまで階段が5段しか無いのを見て、これなら階段に座って、(階段を降りるのと逆の手順で)座ったまままま一段ずつ登れるのではないかと思いつき、そのままあっさり実行してしまいました。いったい、他人の肩を借りて登る時は、いちいち靴(その中に足首固定器も入れている)を履いて、しかも団らん中の二人を呼ばなければならないので、まあ、いろいろ面倒な訳です。そういう面倒臭さが、今回の『自力階段昇降』に繋がったのでしょう。
こういう事は直ぐに再挑戦してこそ自信が付くもので、早速、雨で外に出られない日に、アパートの階段で、座ったままの昇降訓練を試してみました。踊り場までの半階を何往復もするのですが、トータルで100段以上(7〜8階分)昇降すると汗だくになります。汗だくになるぐらいだから良い訓練には違いないし、確かに脚力の訓練にもなっているのですが、実際に疲れるのは肩で、脚の訓練と言うより肩の訓練のような感じでした。だから、せいぜい、雨で外に出られない日に良い訓練と云った所です。
友人宅では階段以外に、任天堂の脚力連動型のゲーム(体重計みたいな台に乗ってのスキーとか玉入れ)も試しました。この、wii というゲームは、ゲームに疎い私の持つ『ゲーム=不健康』のイメージを完全に払拭したものでした。今回試したバージョンは、私みたいに脚力の無いものが脚の細かい筋肉のバランスをリハビリするのに最適な設定になっていて、同時に試した同僚より高得点だった程です。これは病院のリハビリ室にこそ取り入れるべきものでしょう。
実は、この手の体験型ゲームと云うのは、室内用自転車の訓練の際に私も思いついていて、それは、自転車を漕ぐと、距離表示の代わりに正面のブラウン管/パソコンパネルに景色が映るとアイデアです。その景色を毎回替えれば、味気ない自転車訓練も少しは楽しくなる筈だと、一部の友人に6年前から言いふらしていた(極めて簡単なソフトの筈なので、3週間もあれは撮影込みで自作出来る筈)のですが、この分だと、こういうソフトは、私が期待していたトレーニング用品の会社でなく、任天堂かアップルが出してくれそうな気がします。
友人宅での新しい試みの10日後には、ストックホルムでもいろいろ(結果的に)挑戦してしまいました。今回のストックホルム行きはつい1ヶ月半前に決めた事で、純粋にプライベートな旅行です。1ヶ月半前の当初の予定では1〜2泊の筈でしたが、諸般の事情で4泊(6月25〜29日)と決まったのが1ヶ月前で、それから現地介護やホテルのアレンジと始め、それでも、なんとか間に合いました。出張と違って、ホテルや貸車椅子などを自力でアレンジしなければならないし、会議室の代わりに観光したり知り合いを訪問したりするので、準備も日程も出張よりも大変ですが、日本帰省と違って時差は無いし、何よりも会う人数が全然少ないので(今回は4組6人だけ)、疲れは少ない筈で、だからこそ、リハビリ目的にも良い機会になります。今回やってみたい事は
(1)車椅子でなく歩行器で、一人で行く(荷物を運ぶのがちょっと大変なので、出来るかどうかの確認が必要)。
(2)車椅子でなく歩行器で、ストックホルムの地下鉄や鉄道などの公共交通機関を試す(キルナの鉄道はプラットホームが低いので事実上不可能)。
(3)坂の多いストックホルムを膝バンド無しで観光する。
(4)各種の身障者用トイレを歩行器で使いこなす。
の4件です。
まず準備ですが、今まで現地介護を送ってくれていた全国展開の会社が、今回から送ってくれない事になって、新しく介護会社を捜す所から始まりました。いろいろ尋ねた結果、ストックホルム市の職員が『介護会社の検索の仕方』を教えてくれて(公務員だから特定の会社名を教えられない)、その方法は確かにgoogleのようにゴミ情報ばかりが検索上位に来るサイトと違って、必要な情報のみを教えてくれるので、さっそく、その上位4件(全部で200以上のストックホルム事業所が検索に出て来た)に問い合わせたら、1日以内に3ヶ所から返事があって問題は簡単にクリアーしました。ついでにキルナでも同様の検索をすると、民間の介護会社(しかも全国展開)が結構あることが分かったので、将来、キルナ市から民間に鞍替えする事をも思いた程です。
次にホテルですが、これはネットでめぼしい所(値段)を捜しておいて、その全てにメールで問い合わせる方式をとりました。とにかくストックホルムはホテル代が高いのが有名で、1泊1000クローナ(1万8千円)以下を捜したのですが、なかなか見つからず、やっと一ヶ所995クローナの処が見つかっただけで(4泊7万円)、郊外ですら800クローナが限界でしたが、ギリギリに(空室の多い大ホテルの『3週間前値下げキャンペーン』で)1泊600クローナの宿が見つかって、なんとか『安く』で済ませる事が出来ました。
最後に貸し車椅子ですが、これもストックホルム市の職員が教えてくれた方法に、メールをあちこち送る手法を加えて、なんとか2ヶ所だけある事が分かりました。レンタル費用が週300クローナ(5千円)〜月400クローナ(7千円)と云う所まではヨーロッパの相場としてギリギリ妥当と思ったものの、それをホテルに送り届ける費用が片道当たり650クローナ(1万円以上)、即ち、送り届け+引き取りで2万円以上と聞いて、さすがに高過ぎるので諦めました。これが出張なら、現地の担当(会議の主催者とか、サポートスタッフとか)にレンタル会社まで行って貰うのですが、プライベート旅行でそういう訳にも行かないので、結局、
(5)貸し車椅子なしで、歩行器だけでホテルに泊まる。
というリハビリ目標まで加わってしまいました。もっとも、5月のオーストリア出張で1泊目を車椅子無しで過ごしているし、今回は出掛けるのが水曜日なので、必要に応じてレンタル会社にお願い出来るので、かなり気楽に『じゃあ、車椅子無しでやってみるか』と思ったのも事実です。
さて、実際の旅行では、(1)と(5)は殆ど問題なく達成出来た訳ですが、(2)、(3)、(4)は一部で想定以上に難しい場面もありました。
公共交通機関は、近郊線(JRや私鉄の近郊線みたいな奴)に8回、地下鉄に1回、バスに7回乗りました。近郊線と地下鉄はいずれも日本よりも歩行器/乳母車対策が進んでいて、乳母車のいないプラットホームというものを見た事が無い程でしたが、それでも車両とホームの隙間が私には問題で、介護にゆっくり動かしても貰わないと移動出来ない事には変わりません。逆に、慣れない介護だと転倒の危険があり、実際、4日目に来た介護はかなりせっかちな人で、ひやっと思う事がありました。一般に、ストックホルムの現地介護と云うのは、臨時介護の、しかも介護経験の浅い人がなり易い(このあたりフランスやオーストリアや日本とは違っていた)ので、公共交通機関に乗る前にしっかりとしたコミュニケーションが必要だと痛感した次第です。
バスの方は、大抵は身障者対応だったものの、一ヶ所だけ、知人宅に向かう郊外線で、昇降ステップが数段もある高いバスしか走っていない路線があって、乗ろうとしたバスの1本目がそうだったので、それを見送った後にいくつかの方法を考えているうちに(例えば最寄りよりも少し遠い停留所に止まるバスで身障者対応を捜すとか)、プールの階段訓練で両側の手すりをだけに頼って登っている事を思い出し、それなら、バスでも手すりさえあれば登れる筈だと思いついて、次のバスで挑戦してみました。惜しくも、一段当たりのステップが高過ぎて完全に自力で脚を次の段に乗せる事は出来ませんでしたが、その僅かな部分を一緒に来た知り合いに手伝って貰う事によって、何とか無事に高いバスに乗り込みました。降りる方はいつものように座りこんで行く訳ですから、こちらは問題ありません。そんな訳で、
(6)ステップが数段ある高いバスに乗る
という予定外の事まで挑戦してしまった事になります。
一方、ストックホルム観光での問題点は、予想以上にきつい坂、しかも石段の坂です。特に王宮のあるガムラスタンが凄く、膝バンド無しで来ている私には、さすがに降りられない下り坂もいくつかありました。ただ、これだけ坂ばかり歩いていると坂に慣れる訳で、2日目以降はかなりの下り坂をかなり楽に降りるようになってしまいました。実際、翌日には、スカンセンという丘陵総合遊園地(民族博物館+民族動物園+子供の遊び場+ストックホルム展望台)に登って来ましたが、よくぞこんな所に入ってしまったものだと思う程、坂の多い所で、そこでしっかり半日リハビリ観光しまいました。ちなみに、スカンセンはストックホルム観光の定番で、友人に云わせると、スウェーデンに18年も住んでいて、ここに今まで一度も入った事がない私は馬鹿だそうです。入ってみて、何故、ここ(遊園地)が観光の定番なのか納得しましたが、それでも、これほど坂の多い遊園地に、よりによってその坂をギリギリクリアー出来る時に入ってしまったというのは、見方によっては無謀と云う事になります。実際、少なくとも、この坂の内容を事前に知っていたら中に入るのをためらっていたでしょう。
実は、もともとは遊園地に入るつもりはなく、この日はスカンセンのある島を散策(緑が多い)して、ついでにいくつかある博物館を巡ろうと思っていました。ところか、その島の何処でバスを降りれば良いか分からない私が、介護に尋ねたところ、介護は『ストックホルム観光の定番+私の行った事の無いところ』である遊園地に行くのが当たり前と思ったらしく、それが余りに自然な流れだったので、ついつい遊園地に入ってしまった次第です。結果的はスカンセン遊園地の内容に満足したばかりでなく。私自身の坂道歩行能力に自信をつけたので、まあ、瓢箪から独楽とでもいうのでしょうか(ちょっと例えが違う気もしますが)。知らない土地では地元の人間の推薦に任せるのが正しい、という好例(?)でしょう。
さて、最後のトイレ(尿管を空ける方)の件ですが、これがなかなか大変でした。歩行器を停める場所と便器の関係がトイレによって違うだけでなく、トイレットペーパーの場所や流しの場所等も色々違い、その度毎に、歩行器を停める場所を色々考える事になりましたが、まあ、こちらは些細な問題です。より大きな問題はドアとトイレットペーパーの格納です。
ドアに関しては、完全に自力だけでは入れない『身障者用』トイレの多い事には閉口しました。というか、過半のトイレで入り口のドアが重くて私の力では開けられませんでした。結局、一緒に観光した人や介護や、場合によっては通りがかりの人に開けてもらう事になりましたが、このあたりのハード面は自動ドアの多い日本の方が進んでいるように思います。いったい、他人の力を借りないと開けられない身障者用トイレというのは、存在そのものが間違っている気がしますが、それがストックホルムで、この点だけはキルナのほうが進んでします(研究所だけでなく他の劇場とかでも簡単に開く)。
ドアが重いのはホテルの部屋もそうで、身障者用の部屋のくせに入り口のドアが非常に重くて、引っ張るだけでなく、押すほうすら自力で出来ないのには閉口しました。もっともホテル側もその事には気付いているようで、ホテルを決める時のメールのやり取りで、既にホテル側から『ドアが重い』という欠点がある事を云っており(でも安かったからこのホテルにした)、予約担当だけでなく受け付けですら、その事を認識している様で、そのうち対策をとるとの事でした。欠点をきちんと前もって云うあたりは、さすがに一流ホテル(RICA)だけの事はあります。ドアの問題は他にも色々な場所(博物館ですら)にあり、さすがにストックホルム全般の問題ではないかと思いました。始めから非対応と書いてあればいざ知らず、少なくとも『身障者対応』を謳うなら、簡単に開くドアか自動ドアで全行程が可能なようにして貰いたいものです。もっとも、スウェーデンでは私のレベルの人間が外出する際には介護が付くのが普通だから(とはいえ、キルナには1時間以上歩くのを拒否する介護と拒否を認めるキルナ市がある訳だけど、その矛盾はともかく)、それでハードが遅れているのかも知れません。
公衆トイレのもう一つの問題点はトイレットペーパーです。大抵の身障者トイレでは手すりアームにトイレットペーパーが巻き付けてあるので、それを破るのは簡単なのですが、トイレによっては、硬いプラスチック容器の奥に仕舞われている所があります。日本でもそう言うトイレがいくつかありましたが、これこそ身障者用トイレで絶対にやってはいけない事です。というのも、トイレットペーパーが何らかの容器の奥にあると云う事は、紙と『指で掴んで』引っ張り出さないと紙が出て来ない事を意味する訳で、それは、私のように指の使えない人間には出来ない作業だからです。ペーパーが何かのきっかけで濡れない様にと容器に仕舞われているのでしょうが、色々トイレを使ってみて紙が濡れて使えないようなトイレを見た事はありません。要するに、杞憂の為に、『身障者用』の本来の目的を見失っている訳で、トイレ関係者はもとより、こういう酷い容器を作る会社(容器をつくるなら、指の効かない人でも紙が取り出せる仕様で無ければならない)にも文句の手紙を書かなければならないのかな、と思ったりしています。あ〜あ。
まあ、そんなこんなで、色々と挑戦したり、問題点を考え込んだりした『リハビリ観光』でした。その中でも、旅行の対して自信を付けたというのが一番の成果だったと思います。とりわけ大きいのが、毎日、朝10時をホテルを出てから、10時間以上、歩行器だけで外で過ごしたという事でしょう。その間、時々座ったりはしていますが、基本は立っている訳で、まさに『歩行器だけで過ごした』と宣言出来る内容です。いかに研究所に行くのに歩行器を使うと云えども。研究所ではオフィスの椅子に座っている訳であり、今回みたいに、完全に専用の椅子から離れて終日過ごす事は無かったのですから。それは会議出張も同じで、出張というは座って人の講演を聴き続け(ついでも質問とかもするけど)、一緒に食事をする為に行く訳ですから。それに対して、今回は、初めて徹底的に歩行器に頼る日々を過ごした訳で、この成果には多いに満足しています。
そういうハードな4日を過ごした訳ですから、帰ってから1週間は何となく脚がだるい状態が続いていました。ただし、日本行きの後と違って、残っているのは筋肉の疲れだけで、体はぴんぴんで、熱はおろか風邪を引く気配すらありません。まあ、筋肉以外が全然疲れていないのですから、これは当然でしょう。そして、脚の疲れも漸く取れ、今日は久々に長い距離+坂道をかなりのペースで歩いて来ました。この分だと、今年の夏も相当のリハビリ成果が出せそうです。
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