悲劇

8月4日からASPERAミーティングがあるということで、世界中の火星のプラズマをやっている研究者の一部がキルナにやってきた。ミーティング自体は会議がメインでサイエンスの話は少なかったが、Mars Expressのデータが出始めたということもあり、かなり活発な議論が行なわれる有意義な会議だった。さらに翌週には水星探査に関連するミーティングもあったため、日本人研究者も数人キルナにやってきた。

中に週末が入っていたため、風間さんとテラダンと3人で、ナルビクに行くことになった。今回はナルビクに寄り、その後さらに南下してちょっと多きめのフィヨルドに向かうということになった。

土曜の9時頃、出発である。12時前後にナルビクに到着して昼御飯、その後南下しフィヨルドを眺め、15時頃にはナルビクを出発、アビスコで少し歩いたあと19時頃にはキルナに戻る。その予定であった。

アビスコ付近で一時停車し、エクスカーション。ここでナニワの風雲児テラダンに運転を交代した。

ガリガリガリガリ (イヤな音)

プーーーーン (イヤな臭い)

ということで路肩にサーブが停車された。

エンジンルームを見るとジェネレータ(発電器)から伸びるベルトが半分切れている。そして切れてるベルトはややこしいところにハマっている、、、

5分、10分、20分、まあ自分たちではどうしようもなさそうだったのでSaabの代理店に電話してみることにした。レッカーを呼んでキルナまで運んでもらうか誰かに牽引してもらわないと帰るに帰れない。しかし今日は土曜、代理店はもちろん休みである。最悪の事態は、今日は車を乗り捨てて月曜に取りに戻ることまで考えないといけない。

車を購入したときに名刺をもらったボ・エクという苗字と名前をあわせてアルファベット4文字のオッサンに電話してみた。ところが

ボ 「いやー、今休暇でストックホルムなんだよね。」

なんでやねん。

ボ 「まぁ、こいつにかけてみて」

と別の人の電話番号を教えてもらう。ということでキルナにいるサーブの人に電話する。

「月曜に持ってきてくれたら直すよ」

いや、だから、持っていく方法を知りたんだって。

まあ土曜だし時間外労働だからしょうがない。レッカー業者の連絡先を調べてもらう。大病院の外来患者のような待遇を受けながらもレッカー業者に電話。

レッカー業者 「キャン ユー スピーク スウェディッシュ?」

オッサン、エイゴ話せないんですか。アイ キャン ノット スピーク スウェディッシュなんですけど。

フタアナ 「オーケー、アイ スピーク イングリッシュ スローリー」

レッカー業者 「オーケー、アイ スピーク スウェディッシュ スローリー」

スローリーでもなんでもわからないものはわからないんですけど。

でもまあしょうがないので身振り手振り説明を始める。しかし相手も要領がつかめていない。そりゃそうだ、電話では身振り手振りは伝わらない。この電話、実際には一分にもならない程度の時間だったと思われるが、フタアナにはかなり長時間に感じた。

相手がわかってるのかどうか分からない、どうしようか、と思いながら電話していたその瞬間、現実世界から「ハロー」という声。

視線を上げるとそこにはIRFで見たことのある人たち。サーシャとロシア人のゲストである。

「助かった」

一言でいえばそうなるだろうが、その一瞬で頭をよぎった感覚は言葉では表せない。

実は彼等もナルビクに向かう途中で、フタアナの車と同じ車が故障で止まっているというのを目撃し、さらに通過してからそこにいたのがフタアナたちだということを認識したらしく、わざわざ引き返してきてくれたのだった。サーシャにお願いし、スウェーデン語でレッカーを依頼し、保険が有効なことまで確認してもらった。ちなみにサーシャは在スウェーデン歴4年である。故障したのがキルナから100キロ以上離れたところだったので、レッカーの到着まで約2時間だということだ。

2時間後、やってきたのは予想より大きなレッカー車。牽引されるのかと思っていたがまるまる乗るようだ。さて、まずは保険の話をしなければならない。

フタアナ 「フォルスタ ヤー マステ ターラー ポー フォルシェークリング」
フタアナのイメージ「最初に保険について聞きたいいんだけど」

正しいのかどうかは知らんが、フェースツーフェースなら何とかしてやろう。一緒に契約書を見せる。

レッカー業者 「ヤーヤー」

通じてる(みたいだ)。

レッカー業者 「1500クローナで免責だから」

多分こんな感じのことを言ったのだろう(原文不明)。ということで確認。

フタアナ 「ヤー ベタラ フェムトンフンドラクローネ オック フォルシェークリング ペイ エクストラ コスタ?」
フタアナのイメージ 「私が1500クローネはらって、それ以上は保険が払うということ?」

もはや「ワタシ、ニホンゴ、ハナス、アルネ」 レベルのスウェーデン語であるに違いない。なぜか英語もまざっている。

ちなみにペイが英語、エクストラはスウェーデン語

レッカー業者 「ヤーヤー」

通じてる(マジで?)。

フタアナ 「スカビヨーラ」

レッツゴーみたいな感じのフレーズだ、多分。ちなみに山内さんが多用するので耳に残っている。

意外と通じているようだ。調子に乗って聞いてみた。

フタアナ 「オム ヤー ハル インテ フォルシェークリング、ヒュール コスタ デット エ?」
フタアナのイメージ 「保険効かなかったらいくらかかるの?」

レッカー業者 「?」

つ、通じてない、、、でもここは負けてはいけません。

フタアナ 「オム ウータン フォルシェークリング、 ヒュール コスタ デット エ?」
フタアナのイメージ 「もし保険入ってなかったらいくらかかるの?」

レッカー業者 「フェム チューセン」

5000クローナとのお答え、日本円にして7万5千円なり。まあ、相場といえば相場だろう。とにもかくにもフタアナの完璧なスウェーデン語によって商談も済んだので作業に入る。

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サーブも普通に大きい車なのだがそれを感じさせないほどの大きさのレッカー車である。

キルナまで2時間弱、そのままSaabの代理店(修理工場が一体になっている)に向かう。なぜかレッカー業者がSaabの工場の鍵を持っていたのだがツッコまないでおこう。

保険については免責をこの場で払ってしまえばあとはレッカー業者がいいようにやってくれるらしい。

レッカー業者 「ヴィー カン フィックス」

1500払い、書類にサインして終了。一連の騒動のため、昼御飯すら食べていなかったのでトレンドバーレンに向かい、ビールとステーキで乾杯(?)。かなりの精神的疲労に加えスキっ腹にヤケ酒で翌日は二日酔い必須である。

唯一の救いは、その後サーシャから電話があり、

サーシャ 「ナルビクは雨と霧がすごくてフィヨルドなんて見えなかったよ」

サーシャよ、何ていい奴なんだ。