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火星と金星
(母校小学校のPTA誌に書くかされた、父兄向け原稿)

 火星と金星とどちらが地球に似ているか御存じだろうか?
 実は誰も自信がない。いや、正確には、自信を持って答えられる人は、惑星の1面しか理解していないと言える。大きさだけなら金星が近い。雲があるという点でも同じだ。だが気温は火星の方が遥かに近い。金星は400度の灼熱地獄である。生命の存在する可能性も火星にしか無い。火山は金星にあり、氷は火星にある。比較というからには40億年前の過去に遡る必要もある。当時の金星は今の地球に似ていて生命が発生したかも知れないとも言われている。
 では、問いを
『火星と金星とどちらが人類にとって大切だろうか?』
と変えてみよう。
 なるほど、この10年ほど、宇宙探査は火星にばかり集中しているが、だからといって火星が金星よりも重要とは限らない。例えば、今話題の地球温暖化は、将来の地球がまさしく金星のような星になるかも知れない事を警告している。要するにこの問いにも答は無い。
 だが、
『火星と金星とどちらが好きか?』
と問われたら、私は躊躇なく金星と答える。そうなのだ、子供の頃から金星が好きだったのだ。理由は太陽に近くてエネルギーがたくさんありそうだから。そんなことを考えていた。
 金星の研究者にはそんな人が多い。世界中の研究者が火星の研究に集中していた1990年代、日の当らない金星ファンたちはそれでも金星を語った。火星探査に協力しつつも密かにチャンスを狙っていたのだ。それが、現在ヨーロッパと日本で進行している金星探査機の源流となっている。ギブアンドテイク。そう、人が興味を持たない時に、白い目で見られるぐらいの覚悟で自分の好みを1つか2つだけ語り続ける事が重要なのだ。多すぎてはいけない。全くなくてもいけない。

written 2003-10