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リハビリ記録その103

2011-5-29
山内正敏

 長い枯れ野シーズンが終わって、ここ2〜3日で木々から新芽が一斉に出始めています。道路の砂利(凍結時の滑り止め)の除去も終わって、歩行シーズンが始まりましたが、前回のレポートの翌々日に風邪を引いてしまって、この4週間というもの、研究所からアパートまでの8キロ歩行は全然出来ていません。

 そんな悪コンディションの5月でしたが、それでも先週末(5月21日)は330km南の県都に行って、ハーフマラソンに参加して来ました。と言う訳で、今回は初めから無駄話です。
 どんなタイムであれ、制限時間内に完歩さえすれば、歩行器を使った身障者によるレース記録としては世界最長の記録になります。正確には世界記録の確証は100%はありません。というのもこの種のレース部門自体が世界の何処にも存在しないからです。でも、どんなに検索しても出て来ませんから、世界初になる事はほぼ間違いありません。ちなみにパラリンピックには『歩行器競歩』なる部門は存在しません。

 参加に当たって問題になるのが制限時間です。研究所からアパートまでのベストである8キロ/1時間半のペースを守れたとしても21キロは4時間近くかかるのに対し、それだけ長い制限時間を認めてくれる大会は滅多にありません。今回もそうで、12時出走15時15分閉門(表彰式15時)とwebには書いてあります。そこで主催者に繰り上げスタートが出来るかどうか問い合わせた所、11時に子供部門の出走があって人は沢山いるから、10時50分でも構わないとの返事があり、4時間25分でも完歩すれば良いという事になって少し余裕が出て来ました。
 次に問題になるのが、『無理をしない』という基本をいかに守るかです。途中で棄権した所で、誰もやっていないレースに参加する事に意義があります。特別に配慮されたからといって義理を立てて無理に完歩する必要はありません。要するに、いつもの『楽しいリハビリ』の一里塚という態度を維持する事が最優先です。それを何度も自分で確認しなれければなりません。幸か不幸か、今回は風邪が長引いて長距離訓練が3週間も全く出来なかった上に、天気予報がスタート時刻からの雨を予報していて、途中棄権はもちろんの事、参加そのものを見合わせる事も前夜まで考えていました。しかもコースは10キロ周回コースを2周するもので、10キロで棄権しても十分な『10キロ記録』で満足出来ます。変なプレッシャーはありません。

 そんな気分で前日の金曜夕方にボーデンという街に汽車で向かいました。大会のあるルーレオから30キロ程の距離の街で、そこのユースに2泊(個室3000円)しました。そもそも、ハーフマラソンごときなら日帰りが普通ですが(その昔、富士登山競争=21キロで7時半出走に参加した時ですら、前夜の一泊だけです)、当日の汽車では往復とも間に合わない事、ボーデンに介護の彼氏が住んでいる事、そしてキルナから参加する他の人の車に余裕がない事などから、泊まりがけにしました。ちなみに世界初の挑戦の割にユースなんかに泊まったのは、高いホテルに泊まるとプレッシャーが高くなって無理をしてしまう可能性があるからです。無理をしないが事が最優先ですから、気楽に棄権出来る環境を整えなければなりません。これはリハビリで絶対に守らなければならない事です。だから、雨が降り次第棄権すると前もって知り合いにも言ってあります。
 同じ理由で、当日も10時50分スタートだというのに、敢えて9時のバス(その前が8時)でルーレオに向かいました。誤算はここから始まりました。最寄りのバス停がスタート地点に近いと勘違いしてた事が降りてから分かり、結局3キロ近く歩く羽目になって、スタート地点についたのが10時37分(スタート13分前)です。しかも、直ぐに私を見つけた主催者が『スタートは10時45分、あと7分だ』と告げてにわかに慌ただしくなりました。なんせまだゼッケンがないのです。介護が慌てて取りに行く間に、少しでも足を休めようと、地べた座って着替え始めるや、今度は地元新聞社の記者がカメラマン(彼女はレース中も数カ所で写真を撮っていました)を携えてインタビューを受けます。完走出来るかどうか分からないとは答えたものの、完走に向けてのプレッシャーが否応無く高くなります。
 着替えとか終わっても介護は戻って来ません。結局10時49分になって介護が戻り(受付が私の名前を見つけるのに5分近くかかったらしい)、慌ててゼッケンをつけて貰って( 新聞写真 )、水を飲む暇も靴ひもを締め直してもらう暇もなく、10時50分丁度にスタートとなりました( 新聞写真 )。ちなみに主催者がスタートを5分早くしようとしたのは、閉門時間が15時に繰り上がった為だったのですが、余りの慌ただしさに聞き逃して、知らずにスタートしました。この後のスタートは11時に子供の部、12時にハーフマラソン、13時に10キロ部門です。1時間10分のハンディキャップがありますから、ハーフマラソンの連中に何処で追い抜かれるかが一つの焦点です。もちろん天気が何時まで持つかとか、何処まで歩けるかの方が深刻な問題ですが、一旦歩き始めると不思議とそういう雑念は消えて、1キロ毎のタイムのほうが気になります。
 ラップは、初めの1キロが12分で、予定より1分以上もオーバーです。そのあと自分としてはかなりのテンポで歩いたものの、体調万全の時に比べて1キロ当たり30秒〜1分悪いペースがずっと続いて、7キロ地点(3分の1)で1時間20分と、研究所からアパートまでの150m登りのコースよりも遅くなってしまいました。だからといって疲れはたまるわけで、10キロ地点の小さな下り坂で早くも疲労を感じ始めました。ただし、雨は降ってないし、9キロ地点からハーフの普通の選手達が次々に抜いて行くので新鮮な感じもします。だから、1周目で棄権という発想は出て来ません。
 とは言え、11〜12キロ地点の直線コースの強い向かい風は効いて、急速に疲れ始めました。ここで独りぼっちだったらペースが一気に落ちたかも知れませんが、12キロ地点から10キロ部門の参加者(2000人以上の参加者)と合流して常に誰かが回りにいる状態となり、結局15キロ地点までは何とか1周目に近いペースを維持できて2時間51分で通過しました。4時間をギリギリ切るペースです。折しも繁華街に差し掛かる所( 新聞写真 )で、かなりの疲労にも関わらず気力だけは十分にあります。でも、実はこう云う状態こそがオーバーロードの危険を伴っている訳で、何が良いのかは分かりません。
 実際、16キロ地点(3時間4分3秒)を通過したあとにペースが一気に落ち、そこから18キロ地点までの2キロが26分と、一周目よりも4分も余分にかかっています。しかも17キロ地点あたりから雨天直前の寒風まで吹き出して、楽しい歩行という気分が消えると共に、惰性で歩いている感覚になってきました。そもそもレース直前に3キロ余分に歩いているから、既に実質21キロに達していて、足も肩も手も限界です(歩行器に体重を預けているから肩が一番疲れる)。世界記録の期待が無かったら、或いは応援してくれるギャラリーがいなかったら止めていたでしょう。もちろん雨が降り出したら止めている所です。
 そんな折、18キロ地点に最後の給水があり、そこで皆に励まされた結果、これは期待に応えるべく完歩だけでもしておきたいという気分になってしまいました。そして、18キロで棄権しなかった以上、この先はゴールまでの距離が短くなるほど棄権しづらくなります。結局、気を取り直して1キロ13分に落ちたペースを何とか維持して20キロ地点に3時間55分で到着しました。でも問題はここからです。20キロ地点でとうとう雨が降り出してしまいました。これが本格的な雨になってしまったら、ゴールまで1キロといえども完歩する自信は全くありません。たといゴールにたどり着いても、無理のし過ぎで病み上がりの体にダメージを受ける事は確実です。
 雨が小降りで済んだ直ぐに止んだのは幸運としか言えません。お陰で、最後の1キロには15分もかかったものの、とにかくゴールにたどり着きました。4時間10分40秒。ゴールした時は、次第に高まって行くプレッシャーが一気に消えて行く安堵感を、やっとついたという達成感と同時に感じました。
 ちなみに時刻は15時0分30秒ですから、ゴール閉門の時刻そのもので(私はこの時まで閉門を15時15分と信じていた)、完歩メダルを貰う( 新聞写真 )と同時にゴールの撤去が始まりまりました。逆に言えば、スタッフや新聞社にとっては時間ギリギリ(59秒の徳俵内)のハラハラのゴールだった事になります。ラストの4キロは明らかにオーバーロードで、1週間たった今も筋肉痛が残っていますが、体調そのものは良いので、今は完歩に大いに満足しています。

 なお、地方新聞ではスポーツ面ではなく総合面の一面で写真紹介され、更に見開き2ページで記事が書かれていました。記事には同行した介護と介護の彼氏も紹介されています。アベックだったので4時間全く退屈せずに済んだようです。以下、関連ページです。
大会サイトと正式時録
新聞記事 (上の写真もこの新聞のもの。本文にいくつか間違いがありますが大切な事ではありません)。
手持時計での1キロラップ

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