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リハビリ記録その83

2009-10-3
山内正敏

 6月頭と並んで例年より激しい強風の吹き荒れた9月中旬でしたが、今週の初積雪の後は風の弱い秋晴れとなって、氷点近くながら最後の長距離歩行を楽しんでします。

 9月は8月に引き続いて殆どの日をバスと徒歩で通勤しておりました。13往復(26回の片道)のうちタクシーが4回、歩行(8-8.5km)が5回、バスが15回、歩行とバスの混合(3kmだけ歩いて別のバスに乗る)が2回です。特に月末は3日続いて歩いて帰ると云う暴挙(?)をして、さすがに足と腕と手(歩行器で握っている所)がくたくたになりました。面白いのは、7月からの3ヶ月間のタイム変遷で、風向きとか荷物の重さとか疲れとか関係なく中間点(4キロ地点)まで1分以内の誤差で歩いているのに、後半で一気に3〜4分の差が出る事です。これは昨年の7〜9月(今年同時期よりは平均して6〜7分程遅い)でも同じ事が言えていて、まるでアマチュアの20km走(或いはプロのマラソン)と同じではないかと思ってしまいました。
 松葉杖の方は風があまりに強過ぎてほとんど練習出来ていません。今は既に凍結も始まっているので、今後は室内での退屈な練習になります。それでも、膝バンド付きだった昨年と同じフォーム(交互杖:足を1歩進める時に片方の杖を持ち上げたまま)で昨年の6割のスピードで歩くという目標は達成していて(昨年1時間掛かった区間を1時間35分で回っている)、来年はこのスピードを上げるのが目標になります。膝バンド付きで松葉杖歩行のスピードを3〜5割上げるのに2年掛かっていますから(同じコースのデータが殆どないのでばらつきがある)、それを5年目開始でなく8年目開始にスケールすると3年かかる勘定になります。だから、3年より早く5割アップが出来れば、対数(頭打ち無し)よりも早く回復している証拠になるので、将来論文にする意味でちょっと興味があります。  プールの方は夏の2ヶ月の休み(6月中旬〜8月中旬)の影響も終わって、今は階段の3段目(水深65cm)に片足、4段目(水深50cm)に片足を置いて、4段目の方の膝に片手を置いて立ち上がる事が時々可能になっています。理想的には市営プールの子供用プールで同様の訓練をする事ですが、市営プールには、私のように着替えに大きな問題のある人間の為の着替え部屋やシャワーが無いので、病院の今のプールで工夫するしかありません。

 さて、たまには手の話。足に比べて回復を数値化し難い手の方ですが、松葉杖を握ったり、手すりを使って階段やバスに登る訓練をしたりするうちに、少しずつ握りが良くなっていて、握る力が増えている事を実感します。しかし、未だに拳骨を握る事が出来ないので握力計は役に立ちません。私にとっての握力とは、指の一番根元の関節を直角に曲げた状態をどれだけ(の負荷に対して)維持出来るかというもので、それが実生活に使う握力です。つまり身障レベルの意味のある握力というのは、一般の測定で使われている握力とで全然意味が違うのですが、それを考慮した握力測定器というものにお目にかかった事がありません。こういう根本的な問題というのはリハビリの世界で意外となおざりにされがちのようです。握力計はともかく、体感的には確かに手すりを握る力が回復しています。
 指の先端の方も回復を感じてはいるので、『殻を剥く』という事に挑戦してみました。とりあえず易しそうな皮付きのエビ(そのまま食べる為のエビ)で、これは3〜4年前にどうにもならなかったものです。それを口を一切使わずに指だけで剥く事に挑戦したのですが、7割方の皮が除去出来ました。皮の残りは諦めて皮ごと食べています。これに気を良くして、今度は落花生の殻を割る事を、これまだ口を使わずに挑戦しました。これはさすがに難物で、掌(の骨の部分)を使ったり、指と指の間(向き合う形でなく)に挟んでもう一つの手で全体的に押したりして、1個に30秒ぐらいかかりましたが、とにかく割る事に何とか成功しています。ただし1個割るだけで指と掌がくたくたになるので、1回に5個(調子が良いときでも10個)が限界です。あと、やり過ぎるとかえって指に負担がかかり過ぎて逆効果の可能性もあるので、まれにしかやっておりません。
 こういう風に手の機能も回復を見せているので、それと脚力の回復とのコンビネーションとして、身障者トイレでのズボンの上げ下ろしの訓練を少しずつ始めました。ズボンを降ろす方は殆ど片手作業なので、残りの手で手すりを使って体を支える事がなんとか出来ます。でも、ズボンを上げる方はそうはいきません。ズボンやパンツだけでなく尿管(膀胱ロウという直接膀胱に穴をあけて出すカテーテル)やおむつをパンツの中に入れなければならない為に、どうしても両手を使う作業が出て来ます。その間は膝の内側を便器にもたれかかせてバランスを取り、バランスを失いかける毎に手すりに頼るというまどろっこしい手順で、手すりの他に、バランスの為に便器が高めであるという条件が必要です。これを満たすトイレは意外に少なく、普通のトイレでは全く不可能で、身障者トイレでも難しいのが結構あります。現在までに研究所の身障者トイレのうちの1つでは上手く行きましたが、私のオフィスに一番近い身障者トイレが駄目で、同時期に作られたトイレなのに変だと思う事しきりです。病院のトイレも完全に上げる事はまだ出来ません。逆に言えば、これらの身障者トイレで自力でズボン等を上げる事が当面の目標で、その為に、介護に見て貰いながら(介護はいざと云うときの為に私の歩行器をしっかり支えている)少しずつ練習しています。9月は都合6回挑戦して3回成功しています。これが可能になると、丁度一年後の日本行き(出張+1都市)は現地介護だけで(それでも飛行機に誰か知り合いが同乗する必要はありますが)済みます。

 最後に例によって無駄話です。
 新年に宮崎の生家を200万円で売りました。交通の便の良い静かな住宅地で、夏の休暇を過ごすに最適の場所でしたが、病気になってからは家の中に入る事も出来なくなり、維持に困っていたものです(猫屋敷になっていたらしい)。そんなお荷物を買ってくれた隣家は、これを直ぐに取り壊してくれましたが、生まれてずっと住んだ建物が無くなったという感慨よりも、心配事の一つが無くなって安心したという気分です。
 日本ではこう言う取り壊しや立て替えが50年単位で行われてると思いますが、キルナでそういう光景を見た事がありません。街が出来て110年になるから、日本の感覚ならとうの昔に取り壊し/新築があちこちで始まっているべきですが、見られるのは家の一部のリフォームばかりです。それどころか、今度の鉱山の拡張に伴う移転では、こういう古い住宅をも移転する話があるほどで、逆に言えば減価償却が非常に低い事を意味しています。だから一戸建ては簡単に買える物件(年収手取りに2〜3年分)なのですが、それでもアパートに住む人が非常に多く、私が半分属するチームの教授ですらアパート住まいです。これは、雪かきや家の維持や草刈りなどの管理が楽だからで、そこに日本みたいな持ち家神話みたいなものはありません。恐らく、こういう環境に慣れてしまったのも、宮崎の家を売って感慨よりも安堵が遥かに大きかった理由の一つでしょう。自分の力ではどうにもならない心配事が一つなくなったお陰で、この夏は極めて気楽な気分でリハビリに専念する事が出来ました。なお、生家の跡地はこの10月より犬の運動場となっています。私の行けない猫屋敷よりは余程有効な土地の使い方でしょう。
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